10人で1点めざした夏 勧誘から始まった公立校の挑戦

山口裕起
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 2年ぶりの開催となった高校野球の全国選手権。甲子園へとつながる地方大会が、各地で佳境を迎えている。日本一を狙う高校があれば、初戦突破をめざすチームもあり、その目標はさまざまだ。滋賀大会に選手10人で挑んだ県立校の虎姫(とらひめ)は、「1点」を掲げて強豪に立ち向かった――。

 13日に大津市の皇子山球場で行われた滋賀大会1回戦。夏は2016年に1勝したのを最後に勝利から遠ざかる虎姫は、春夏計19回の甲子園出場がある近江と顔を合わせた。試合前のあいさつから圧倒された。20人の選手、その後方のスタンドに90人近い部員が控える相手に対し、自分たちは10人しかいない。しかも、そのうち5人は1年生。慣れない公式戦に落ち着かない様子だった。主将の中村椋哉(りょうや)(3年)は言う。「いいんです。試合ができることだけでもうれしいので」

 虎姫は県北部の長浜市(旧虎姫町)にある1920年創立の県立校。9割を超える生徒が現役で大学などに進学する。今夏は単独チームで出場できない危機にあった。昨夏、最上級生が引退すると部員は9人になった。秋の県大会はなんとか出場できたが、1回戦で東大津に0―13と大敗し、「チームがバラバラになった」と中村は振り返る。新型コロナウイルス感染拡大の影響でそろって練習することができず、部員たちは目標を見失った。「何のために野球をやっているのか分からない……」。一人また一人と退部。冬を越えると、部員は5人になっていた。

 4月。新入部員の勧誘が始まった。3年生3人、2年生2人の5人は放課後、真新しい制服に身を包んだ生徒の姿を探した。コロナの感染防止策で教室の中には入れないため、生徒玄関で待ち伏せた。「中学時代に野球をやっていた人と、がたいのいい人に片っ端から声をかけた」と、エースの飯田朝陽(あさひ)(3年)は振り返る。下校する後輩に、「野球って楽しいよ」と言いながら、頭を下げて回った。

 5人の1年生が入部し、部員は10人になった。まずは硬球に慣れることから。キャッチボールもおぼつかない状態で、人数的に紅白戦もできない。秋の県大会に続き、春の県大会でも1回戦で北大津に0―10で敗退したが、試合ができるだけで満足だった。

 迎えた、この夏。代替わりしてから公式戦で得点したことがないチームは、「1点を取ること」を目標に挑んだ。沢村祥太監督も「思い切って振れ」。時速130キロ台の速球を投げる近江の左腕に対し、バットを短く持って食らいついた。三回、1年生の7番桜圭吾が中前へチーム初安打を放つと、ベンチは沸き立った。同じく1年生の9番木村星成(せな)も三遊間に転がして内野安打とチャンスを広げた。だが、後が続かず、終わってみれば3安打で0―10の五回ゼロ封コールド負け。試合時間は1時間24分だった。

 最後まで本塁は遠かった。3人の3年生に安打も出なかった。それでも、みんな笑顔だった。中村は「みんなで力を出しきれた。苦しいことが多かった野球生活だったけれど、最後にチームが一つになれた」。そして、少し悔しそうな表情で言った。「後輩たちには、得点の喜びを味わってほしい。応援しています」

 3年生が引退したら、部員は7人になる。秋の大会に向けて、また勧誘が必要になる。2022年は創部100周年の節目。「1点」は、後輩たちに引き継がれる。(山口裕起)