先攻・後攻どっちが有利? ジャンケン勝者の9割が後攻

抜井規泰
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 熱戦が続く高校野球。戦いの始まりは、「プレーボール」の瞬間ではない。五回裏が終わると、グラウンド整備が始まる。そのとき、球場の裏手では次の試合を戦う両校主将の戦いが始まっている。勝った主将に選択権が与えられる、ジャンケンだ。先攻と後攻は、どちらが有利なのか。

 東京都高校野球連盟の常務理事で、海城高校責任教師の山本憲明教諭(55)は10年余、神宮第二球場での主将のジャンケンを見守ってきた。「8割、いや9割方の主将が後攻を選んでいますね」と語る。

 山本さんは、「先攻は、同点で終盤を迎えるとサヨナラ負けのリスクを負う。それを避けるために後攻を選ぶチームが多いのでは」と話す。プロ野球ではホーム側が後攻ということも影響しているとみる。

 海城はどちらを選んでいるのか。「うちも後攻を取ります。七回コールドで負ける試合でも、後攻なら七回裏の攻撃がある。スコアボードの右下に「×」を入れられてしまうのではなく、最後まで試合をしたいというのも理由です」

 とはいえ、「強豪校っていうのは、ジャンケンも強いんですよ。甲子園常連校との試合で、『勝ったら後攻だぞ』と決めていても、なぜか負けて先攻をもらって帰ってくる」と山本さんは苦笑する。

 ただ、ジャンケンに勝ったら必ず先攻を選ぶ高校もあった。阪神淡路大震災直後の1995年の選抜大会で優勝した香川県の観音寺中央(現観音寺総合)。同校が出場した春夏の甲子園で、記者は計7試合のジャンケンをすべて見たが、当時の土井裕介主将(44)は勝てば必ず先攻を選んだ。

 同校の故橋野純監督は、攻守の選択を土井主将に任せていた。教員となり、いま母校の監督を務める土井さんに尋ねた。必ず先攻を選んだ意外な理由は――。

 「僕、1番バッターだったじゃないですか。好きだったんですよ。サイレンが鳴っている時に打席に立つのが」

 95年の春と夏の甲子園計7試合で、観音寺中央が後攻になったのは1試合のみ。春の準々決勝の星稜(石川)戦だけ、ジャンケンに負けて後攻だった。土井監督は「山下さん(智茂・星稜元監督)は僕が先攻を取ると知っていて、出ばなをくじこうとしたんだと、今でも思っています」

 そんな土井監督は、指揮官となったいま、先攻と後攻のどちらを選んでいるのか。「年によって違いますが、後攻が多いですね」

 ただ、先攻と後攻のどちらが有利か、いまも考え続けているという。

 サヨナラ負けのリスクを考え、後攻を選択するチームは多い。ただ土井監督は、「タイブレークは先攻有利だと思います」。延長十二回を戦っても決着がつかない場合、延長十三回以降は無死一、二塁から試合を始めるタイブレーク。先攻だと、サヨナラ負けのリスクがあるのだが……。

 「先攻は十三回に自分が何点取ったかで守り方を選べます。先に2点取った場合、裏の守備での相手の送りバントは、むしろ歓迎。1死二、三塁から右犠飛で1点返されて2死三塁になっても、まだ1点差。次打者との勝負に勝てばいい」

 土井監督は、「守り方を選べるのが先攻。攻め方を選べるのが後攻」と語る。

 甲子園での、こんな伝説的なシーンがある。

 95年8月16日。夏の甲子園で観音寺中央が日大藤沢(神奈川)と戦った2回戦。3―3で迎えた延長十一回裏。1死三塁とされた場面で、観音寺中央は中堅手を三塁手の前に置き、「内野5人シフト」でスクイズを封じた。「あれは、1点も許されない先攻でしかできないシフトです」。土井監督はそう振り返る。

 スクイズは封じたものの、この回に1点を失い、観音寺中央の史上初の「初出場春夏連覇」は消えた。「先攻とは守りの選択――。あの試合で僕らは負けましたが、いまそれを強く思っています」

 プレーボール前の五回裏。客席からは見えない舞台裏で、次の試合を戦う両主将の熱き戦いが繰り広げられている。(抜井規泰)

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    稲崎航一
    (朝日新聞編集委員=スポーツ、野球)
    2021年8月5日15時43分 投稿
    【解説】

    おもしろい視点の記事です。 有利不利でいえば、「後攻が有利」なのは間違いありません。プロ野球は本拠が必ず後攻です。記事にあるようにサヨナラ負けのリスクがない。九回以降、延長戦になればなおさらです。先攻チームにとって、1点(多く)取られたら