第5回「ボードに米国の旗、ハートにハワイ」 博愛が似合う波乗り女王

サーフィン

編集委員・稲垣康介
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サーフィン女子 米国 カリッサ・ムーア(28)

 ハワイの人々には「サーフィン発祥の地」の自負がある。国際大会でも敬意を払われ、選手たちは「米国代表」ではなく、「ハワイ代表」として波に乗る。

 しかし、国際オリンピック委員会(IOC)はそれを許さない。米国の旗の下で戦う選択肢しかない。

 4度のツアー総合優勝に輝き、今季もランキング1位を走る波乗りの女王は、ホノルルで生まれ育った。

 こんな仮説が浮かんだ。本命の彼女が優勝すれば、ハワイの旗も羽織り、喜ぶかもしれない。2000年シドニー五輪で陸上女子400メートルを制したキャシー・フリーマン(豪州)がウィニングランで豪州旗とともに自身のルーツである先住民族の旗を手にスタジアムを回ったように――。

 27日。台風8号が接近するなか、午前中の準々決勝で荒れる波を攻略した。快勝して取材ゾーンに来ると、快く単独取材に応じてくれた。午後に準決勝が控える。単刀直入に聞いた。ハワイアンが米国代表で戦う葛藤はないですか?

 「私はボードに米国の旗を貼って波に乗る。一方、私のハートには間違いなくハワイの旗がある。二つの文化を代表することを誇りに感じています」

 同じ質問をたくさん受けてきたのだろう。政治的な摩擦に巻き込まれるのを避ける思慮深さを感じた。

 2年前、米国と日本などが米ハワイ島に建設をめざす世界最大級の天体望遠鏡について、先住民の聖地マウナケア山の景観や環境が脅かされるとして反対運動が激化した。ハワイと本土には、緊張関係がある。

 彼女は予想通り、金メダルを手にした。羽織ったのは星条旗だけだった。母国の記者に囲まれ、ハワイに絡む質問が飛んだ。

 「ハワイはサーフィン発祥の地。私が『アロハ精神』の良い親善大使であればと思う。ハワイの人々には夢を持って努力すれば必ずかなうと信じてほしい」

 政治的な発言を引き出そうと試みる報道陣に向け、自らの人生観を口にした。

 「海は私の人生を変えた。波に乗ることは私を自由にしてくれる。心を穏やかにしてくれる。自分を愛し、地球を抱きしめて、人と人の絆を深めてくれる」

 海がもたらす心の浄化作用。幼少の頃からワイキキビーチの波と戯れてきた彼女には、博愛が似合う。(編集委員・稲垣康介

連載Why I Stand(全17回)

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