「映画祭が育ててくれた」濱口竜介監督 カンヌでの思い

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佐藤美鈴
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 7月のカンヌ国際映画祭の長編コンペティション部門に新作「ドライブ・マイ・カー」を出品し、脚本賞を受賞した映画監督の濱口竜介さん(42)。「描きたいのは感情。俳優の身体から感じられる、うそじゃない何か。そういうものが映るといい」と語る。3年前の商業デビュー作「寝ても覚めても」がカンヌのコンペ入り。昨年のベネチアでは共同脚本を手がけた黒沢清監督の「スパイの妻」が監督賞、今年のベルリンでは「偶然と想像」が審査員大賞を受賞するなど、世界の映画祭に愛され続けている。日本映画の新時代をリードする新鋭に、映画にかける思いや監督への道のりについて聞いた。佐藤美鈴

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「ドライブ・マイ・カー」の公式上映後、スタンディングオベーションにこたえる濱口竜介監督=フランス・カンヌ、伊藤恵里奈撮影

 ――カンヌ映画祭での公式上映後、少し涙ぐんでいましたね。

 自分の映画でばかばかしい話ではあるんですけど、最後の場面を見ていて、その名残です。編集も含めて何百回も見ているけど、今回とても新鮮に見られて素晴らしいな、と思って。

新しい映画の形、発見できた

 ――上映後、数分間にわたってスタンディングオベーションに包まれました。

 本当に感激しました。拍手の熱量みたいなものをすごく感じて、胸を打たれました。劇場で見ることで映画が観客と一緒に乗り物に乗っているような感じにもなるし、舞台を見ているような感じにもなる。無音の場面では、劇場のわずかな音、観客たちの息づかいが聞こえてきた。役者さんの演技に対して、どんどん集中力が高まっていくという感触を劇場で受けました。観客と見ることによって新しい映画の形というのが自分でも発見できて、すごく素敵な体験でした。

 ――国際映画祭はどのような場ですか。

 インディペンデントな形で映画作りを始めてしばらくそれを続けてきた身にとっては、心のよりどころだった。自分が面白いと思うものを作っても商業的に流通していかない苦い思いをキャリアの初期で味わっているんですけど、これはセレクションに加えよう、これはより多くの方に見せるべきだ、と歴史ある映画祭の方たちが言ってくれることは、ものすごく大きな励みになりました。それによって劇場公開が可能になった作品もあります。国際映画祭が自分を発見してくれたし、育ててくれた。お返しできるものはしていきたいと常々思っています。

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はまぐち・りゅうすけ 1978年、神奈川県生まれ。東京大学の映画研究会で映画を撮り始める。テレビの制作現場などを経験し東京芸術大大学院映像研究科へ。2008年の修了制作は「PASSION」。東日本大震災の被災者インタビューからなる「なみのおと」(11年)など「東北記録映画三部作」を共同監督。「ハッピーアワー」(15年)をロカルノ国際映画祭に出品。

村上春樹作品の魅力

 ――今回、「ドライブ・マイ・カー」では、村上春樹さんの原作のどこに魅力を感じて映画にしようと思いましたか。

 村上さんの小説の中でも特に好きな作品でした。短編ですが、描かれている以上の人生があるということを確かに想像できるようなくっきりとしたキャラクターがいて、車という移動空間に乗って2人の間で言葉がこぼれ落ち、交流が始まり、深まっていく。最初は抑制された人間性が、だんだんと開かれていく。それはこの映画でも一つの核心部分だと思っています。

 ――コロナ禍で撮影は変更を余儀なくされました。

 韓国の釜山で撮るはずだったものが撮れなくなった時に、広島という場所と出会えたのはすごく大きかった。街にも、ある種の文化的、精神的なものが感じられ、一方で瀬戸内の自然は光線が美しいという印象が強烈にあった。ここで撮りたい、と思える出会いがありました。

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映画「ドライブ・マイ・カー」の舞台あいさつで主演の西島秀俊さん(右)と笑顔を見せる監督の濱口竜介さん=7月4日午後、東京都港区、遠藤啓生撮影

 ――映画には海外キャストも出演し、多言語演劇や韓国手話といった要素も取り入れています。

 言葉によって情報をやり取りし、細分化していくことはできるけれど、それによって見えなくなっていることがある。ちゃんと相手を見ないと、相手と相互に反応し合わないとできない方が案外、自分が考える演技の核心みたいなものにたどり着きやすいのでは、と思いました。手話については以前、聴覚障害者の映像祭に呼んでいただいたことがあって、障害者の人の言葉というより単純に、異文化、もう一つの言語であると思いました。

 ――5時間17分の「ハッピーアワー」をはじめ作品の長さも特徴の一つ。今作は2時間59分です。

 この人たちがどうしてこうするのかというのが分かったほうが役者さんが演じやすい。そういうところも含めて書き込んでいくと、サブテキスト的な部分も全部充実して撮れているというところがあった。「2時間20分までに」ときつく言われていたんですけど、結果的に編集をして3時間を超えてしまって、青ざめました。なんとか3時間を切る編集にして「これでいきましょう」という話になったので、本当に胸をなでおろす感じでした。

 ――一方で「偶然と想像」など短編も撮っています。映画の長さについてどう考えていますか。

 結局、登場人物が陥っている関係性による。少なくともこの尺が一番面白い体験を提供できると思っているので、それは信頼して来ていただきたいし、観客との間に信頼関係を作っていくしかないと思います。

 ――無感情で何度もせりふを音読し、本番で初めて解釈を加える「本読み」などの独自の演出方法が、今回は作品の中にも反映されています。

 主人公が演出家で、自分が一番本当だと思っていることを取り入れることが一番シンプルで演技にとっても効果的。最終的にはどうやって役者さんが安心して現場に、カメラの前に立てるかという状況をつくるもの。考えなくても口からせりふが出てくる状態になっているだけでリラックスの度合いは違ってくるし、声も違ってくる。どこまでいってもカメラの前に立つのは怖いこと。それをちょっとでも和らげる一つとして、本読みもあります。

「自然と道が決まった」

 ――映画監督を志したきっかけは?

 大学の5年間の中で「徐々に」という感じです。元々映画を見ること自体は好きで、家から歩いて2分くらいにレンタルビデオ店があったので。

 中高時代は岩井俊二さん、ウ…

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