「黒い雨」訴訟で住民の勝訴確定 識者に聞いた救済の道

戸田和敬、比嘉展玖、米田優人
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 広島への原爆投下後、放射性物質を含む「黒い雨」を浴びた住民ら84人全員を被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を命じた広島高裁判決が29日、確定した。広島市は8月6日の「広島原爆の日」を控え、週明けから原告側へ手帳を交付する予定だ。

 菅義偉首相は27日の談話で、84人と同じ状況の人たちについても「訴訟への参加・不参加にかかわらず、認定し救済できるよう、早急に対応を検討する」とした。ただ、高裁判決が、汚染された水や野菜の飲食などに伴う「内部被曝(ひばく)」の健康への影響を幅広く認めた点について、「容認できない」との考えも示した。

 市には「(原告らと)同じように黒い雨を浴びたが申請できるか」という問い合わせが、28日までに40件寄せられたという。こうした原告以外の人たちも、高裁判決と同水準で救済する枠組み作りが焦点となる。(戸田和敬、比嘉展玖、米田優人)

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控訴審判決の言い渡し後、「全面勝訴」を喜ぶ原告ら=2021年7月14日午後3時3分、広島市中区、上田潤撮影

識者「審査基準の見直し不可欠」

 広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を浴びたと訴えた84人全員を被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を命じた広島高裁判決が確定した。高裁判決の理念に沿った幅広い救済は可能なのか。環境法が専門の島村健・神戸大大学院教授に聞いた。

     ◇      

 国側の上告断念は、高齢化の進む被爆者への援護を前文に掲げる被爆者援護法の理念に沿う。一、二審判決が、訴えた84人全員を被爆者と認めたことを重く受け止めたのだと思う。

 広島高裁の判断は、黒い雨が降った一部区域を対象に、疾病が出た人に限って援護してきた行政の方針とは異なる。原爆投下直後に黒い雨が降った範囲などを国が調査しなかったことが「誠に惜しまれる」と言及しており、どの地点でどの程度、放射線の影響があったかを「線引き」するのは難しい、との前提に立っている。従来の国の考え方とはかけ離れており、被爆者認定をめぐる行政の審査基準の見直しが不可欠だ。

 だが、高裁判決はあくまで原告らを個別に被爆者だと判断したにすぎない。現状の行政運営が続く限り、国の援護対象区域外で黒い雨を浴びた人たちは、訴訟を起こし、被爆者と認められないと救済されない。

 被爆者健康手帳の交付を求める裁判は、長崎でも続いている。2017年に最高裁は「科学的知見によれば爆心地から5キロ以内に存在しなかった者は放射線による健康被害が生じたとは認められない」として「線引き」を認め、原告らの訴えを退けた。原告の一部は被爆による「急性症状」を訴え、再び提訴している。国は、こうした人たちの救済まで視野に入れるのか。

 水俣病や、建設資材に含まれるアスベストによる健康被害をめぐる問題では、国が救済の仕組みを新たにつくった。立法などにより一定の要件を満たす人を救済する枠組みができれば、長崎のケースの救済につながる可能性も出てくる。黒い雨を浴びたと訴える人たちのため、高裁判決が示した理念に基づく救済制度を早急に整えるべきだ。

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島村健・神戸大大学院教授=本人提供