2年ぶりの阿波踊り、徳島新聞と徳島市が反論合戦

伊藤稔
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 今夏、徳島市の主催で2年ぶりの開催を目指す阿波踊りを巡り、市と地元紙・徳島新聞との対立が続いている。運営体制の変更に関し、内藤佐和子・徳島市長らの対応を批判した同紙の社説や解説記事に対し、市がホームページ(HP)で「事実無根」などと反論。同紙もHPで再反論を繰り広げ、両者一歩も引かない異例の事態となっている。

 阿波踊りは昨夏、新型コロナウイルスの影響で戦後初めて中止となった。運営を担ってきた民間3社でつくる共同事業体は実行委員会(委員長・内藤市長)に対し、開催準備にかかった経費約2100万円の負担や、実行委への納付金500万円の支払い免除を要求。だが、実行委は「赤字を補填(ほてん)しない契約になっている」と応じず、2023年度までだった契約を今年3月31日に解除した。

 徳島新聞は、一連の経緯について「実行委員長の内藤市長から十分な説明がない」「『事業体外し』へと突き進む市の独断専行ぶりが浮かび上がってきた」などと、内藤市長や市の対応を批判する社説や記事を相次いで掲載した。

 これに対し市は4月28日、HP上に「報道に対する市の見解・対応」とするコーナーを開設。3月9日付から4月14日付までの社説など5本の記事の「事実と異なる点・不適切な点」を示し、詳細に理由を記して反論している。

 これを受けて徳島新聞はHPで、市の指摘事項すべてについて、「事実に基づいた主張、論評だ」「記述に問題はない」などと再反論している。また、徳島新聞は5月1日の朝刊1面で「市として非常に遺憾で、看過することができない。記事の訂正などがない場合には、法的手段も検討せざるを得なくなる場合がある」などとする内藤市長名の抗議文が送られてきたことを公表。2面では「マスコミを萎縮させようとの意図なら、あまりにも非常識。今後も是々非々で臨みます」などとする論説委員長の署名記事も掲載した。

 内藤市長は昨年4月の市長選で現職を破って当選、史上最年少の女性市長となった。選挙戦でもSNSを活用し、市長になってからもツイッターなどで情報発信に力を入れてきた。

 HPで反論した理由について、内藤市長は会見で、「メディアの見解だけが紙面に掲載された場合、市として反論する機会がない。申し入れをしても訂正記事が載らない場合がある。新聞はメディアとしての伝達能力が高い。市と考えが異なった場合には、きちんとしたエビデンス(根拠)や市の考え方を発信していきたい」と説明した。

 徳島新聞の朝刊の発行部数(2020年下期)は、日本ABC協会によると約19万部。県内の朝刊の約86%を占める。同紙は17年まで市観光協会と阿波踊りを主催してきたが、市観光協会の累積赤字が表面化。翌年から運営体制が見直された経緯がある。

公権力とメディアの関係 識者はどう考える

 両者の対立について識者はどう考えるのか。

 田島泰彦・元上智大教授(メディア法)は「公権力のある自治体に対しメディアが取材し、批判や厳しい指摘をするのは当然」とした上で、「市はそれを受けて丁寧に説明しなくてはならない責任がある。相手を敵視し、打ち負かすような言論であってはならない」と市の対応を疑問視する。

 一方、ジャーナリスト佐々木俊尚さんは「メディアによる自治体や国など公権力への監視は大変重要だが、メディアが間違っているケースも過去に何度となく起きている。行政がメディアを批判・反論することはあってよく、同時にそれに対してメディアが再反論する権利もある」と述べ、感情的な応酬に陥らず、市民にやりとりが可視化されていることが必要と指摘する。

 「一新聞社の論説に対し、市がここまで過剰に反応して対立する構図はめったにない」と驚くのは、ジャーナリスト大谷昭宏さん。内藤市長がこれまでの祭りの体制を全否定したことが対立の背景にあるとの見方を示し、今回の騒動が阿波踊りをもう一度考え直すいい機会になって欲しい、と期待する。「全国的にも祭りが観光客の誘致と収益を目的としたイベントになってしまっている。市や新聞社も参加し、シンポジウムをやってもいい。阿波踊りを市民の手に取り戻し、全国に発信する良いチャンスではないか。阿波踊りは全国の祭りのなかでも優しい祭り。けんか祭りにしてどうするんだ」(伊藤稔)