世界的バイオリニストと一本松 出会いも、悲しい別れも

成田認
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 岩手県盛岡市の太田信子さん(77)は、月1回のペースで自宅から東日本大震災の被災地に足を運び、写真を撮影している。出会いも、悲しい別れもあった。

 2011年の秋から被災地で撮影を始めた。ふと柿が見たくなり、産地の大船渡市日頃市町に出かけた。軒先に干し柿がすだれ状になっていたのを見つけ、「きれいなので撮らせて下さい」とこの家の男性に頼んだ。妻も呼んでもらい、干し柿をバックに微笑(ほほえ)ましい夫婦の写真を撮ることができた。

 震災から1年後の3月11日、陸前高田市へ行った。奇跡の一本松を眺めていたらバイオリンの音色が聞こえてきた。冥福を祈る演奏が真剣で、金縛りに遭ったかのように動けなかった。その時、一本松の後方に人が歩いているのが見え、バイオリンの演奏シーンと一本松、人物を入れて撮影した。

 世界的なバイオリニスト、イブリー・ギトリスさんだと知ったのは、後のことだった。この写真が「日本財団 写真・動画コンクール2012」でグランプリを受賞し、ギトリスさんとの交流も始まった。ギトリスさんは昨年末、98歳で亡くなり、太田さんは「震災復興活動に力を入れ、岩手でコンサートをやることになっていたが、病気で中止になった。もどかしい気持ちだったと思う。残念です」とその死を悼んだ。

 機械いじりが好きで、10代の頃から撮影してきた。写真講座に通って本格的に撮り始め、全日本写真連盟に入って腕を磨いた。現在、全日写連関東本部委員として、岩手県本部の指導と例会作品の選者を務めている。

 今でも頻繁に被災地を訪れる。「写真を撮っていいですか」と声をかけると、微笑んでくれる人がいるといい、「こういう人たちの笑顔を見たいから」と、シャッターを切り続ける理由を語った。(成田認)