第2回村上春樹さん「隠れたクラシック盤、紹介したかった」
作家の村上春樹さんが、新著「古くて素敵なクラシック・レコードたち」(文芸春秋)を出し、クラシック音楽について初めて本格的に語りおろしました。いま、村上さんにとって、音楽を聴くこととは。音楽を書くこととは。音楽担当の編集委員が聞いたロングインタビューの後半をお楽しみください。
――今回、いろんな名盤との「再会」があったわけですが、当時とはまったく違った顔であらわれた演奏ってありますか?
僕は昔、ホロヴィッツがすごく好きだったんです。でも、いま聴くと、ものすごくうまくて迫力もあるのに、そのダイナミズムの質に古っぽさのようなものを感じてしまうことが、時としてあります。逆にルービンシュタインは、いまの方が理解できるような気がします。音楽を愛する気持ちが素直に伝わってくるし、何というか、すごく人間的なものを感じる。シューベルトの変ロ長調のソナタ(第21番)は、本当に素晴らしかった。
僕はどちらかというと、自分という「個人」が前に出てくる音楽家が好きなんです。先のフリッチャイにしてもマゼールにしても、どちらかというとちょっと格下のオーケストラを指揮している時の演奏が、圧倒的に面白いんですよね。好きなようにやれちゃうんでしょうね。個性が浮き出してくる。ベルリン・フィルとかウィーン・フィルが相手だと、さすがにそうはいかない。
――イタリアの田舎町の、ぼろぼろのちっちゃなオペラハウスのオーケストラが、決してうまくはないのに、すばらしく生き生きとしたグルーヴを持っていたりします。
僕、ローマに2年くらい住ん…