「まちの石屋さん」復活へ発起 川崎市の水口石材
【神奈川】高い買い物だから、納得して決められるように、しっかり説明したい。墓石職人の水口衛さん(57)は、そんな思いで水口石材(川崎市)を立ち上げた。目指すのは「まちの石屋さん」。客の希望に寄り添うため、古くからの技術を磨くのに加え、最新工法の導入にも力を入れている。
ビジネスチャンスにはこだわらない。墓の建て直しを相談されても、「これなら今の墓石を『磨き直し』をした方がいい」とすすめることも少なくない。
磨き直しとは、古い墓石の表面を少し削って磨くことで、キズや汚れを取るリフォーム技術だ。ただ、作業が「面倒くさい」。
表面を見ても分からない深いキズなどもあって慎重に扱わなければならない。一度解体して搬出するなど、手順も多い。だが、新たに建てるより安く済むし、何より墓を建てた先祖の「思い」を残すことができる。水口さんが力を入れている理由だ。
石材店を営む家の次男として生まれた水口さんだが、最初はシステムエンジニアとして、コンピューターソフトの開発会社に就職した。6年後、家業を支えていた兄に「一緒にやってくれないか」と誘われ、職人の道を歩み出した。休みが減り、給料が半分になるが、「学生の頃から、やってみたいな、と思っていた」という。
その後職人として腕を磨いた水口さんは、昨年、独立した。墓に対する社会の考え方が多様化し、人口も減っていく中、石材店の廃業も増えていくとみられている。その中で「技術面での強みを生かして勝負したいと思った」。
水口さんは、新しい技術を積極的に採用。新設でもリニューアルでも、耐震や免震加工を施すのを標準とした。手彫りの彫刻も、30代の若手に伝えるなど、会社の強みとなっている。写真をそのまま再現できるレベルで、ペットの遺影を残したい人たちなどからの注文が増えているという。
見積書や契約書などの書類や、契約通りの仕事をしていることを証明する現場写真をきちんと示す。「ほかの業界では当たり前のことをやって、お客さんに納得、満足してもらう」
一方で水口さんは、「お寺と檀家(だんか)さんをつなぐ、昔ながらの石屋の役割も担い続けたい」と言う。住職の代わりに宗派のしきたりやお布施の相場を伝えたり、檀家側の疑問を住職に伝えたり。寺のイベントがあれば準備や片付けを手伝うのも「当然の役割だ」。
付き合いのある寺とは、共同墓地や納骨堂の建設、運営なども、一緒に手がけている。「まちの石屋」として墓に対する世の中の意識の多様化に寄り添うことが、将来の経営を支えることになると感じている。(大平要)
水口石材 首都圏を営業エリアとし、新しい墓のデザイン、建設やリフォーム、骨を粉状にする「粉骨」、納骨作業などを幅広く手がけている。今年度の売上高は1億5千万円強の見通し。社員10人のうち7人は技術職。電話0120・077・940
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