性的少数者暮らしやすい街に 宇部市の宣誓制度開始

太田原奈都乃、前田健汰
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 山口県宇部市は1日から県内で初めて、LGBTなど性的少数者のカップルを公的に認定する「パートナーシップ宣誓制度」を導入する。当事者からは喜びの声が上がる一方、宣誓することの難しさや、県内のほかの自治体に同様の制度が広がっていないなど課題も残されている。(太田原奈都乃、前田健汰)

 宇部市内で一人暮らしをしている30代の男性は、宣誓制度の運用開始に複雑な気持ちを抱く。自身がゲイである経験から、多様な性があることを訴えてきただけに喜びは大きい。だが、申請要件を満たすことができず、自身は申請ができないからだ。

 小学生の頃から同性への感情が周りと違うと感じていた。家族やテレビは何も教えてくれない。自分で自分が分からず、「変な人」「おかしい人」なのではないかと不安になった。大学に入り、ジェンダーの授業で「性的マイノリティー」という言葉を知った。存在を認められた気分だった。

 社会人になってからは、性的少数者らの支援団体「レインボー山口」で活動を始めた。子どもが成長する教育現場で多様な性への理解が進むようにと、社会人3年目からは教職員向けに自身の経験を交えた研修会を行っている。今回の宇部市の制度は、当事者らにとって自治体が性的少数者を正しく理解してくれているという安心感につながると話す。「自治体が折れずに懸命にやってくれた成果。できたことに意味がある」と喜び、楽しみにしていた。

 だが、男性自身は制度の申請はできない。申請要件に「市内在住または市内への転入を予定し、同居すること」とあるからだ。男性のパートナーは県外在住。同居は、地域内でのカミングアウトが必要なことや周囲に気付かれる可能性があることから「本当にハードルが高い」と話す。

 大阪市宮崎市などではカップルの1人が市内在住か転入予定なら申請を認めている。「困って使いたいときに使えない制度。もったいない」。さらなる制度の改善を望んでいる。(前田健汰)

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 宇部市を除く県内18市町と山口県に取材したところ、同様の宣誓制度について現時点で導入予定があると答えた自治体はゼロだった。

 「導入の検討を進めていくことは必要だが、その間、性的少数者の方に関する啓発を進めたい」(岩国市)、「まずは啓発に努める」(下関市)、「社会の理解がなくてはならず、周知や啓発が先」(萩市)など、大半の自治体が理解を深めるための取り組みを優先すべきという理由から導入に慎重な姿勢だった。

 全国ではこれまで、茨城、大阪、群馬、佐賀が府県レベルで導入済み。山口県弁護士会は5月末、制度制定を求める会長声明を村岡嗣政知事宛てに提出。村岡知事は6月の定例会見で県の対応を問われ、「多様性を認めることは社会全体の方向として必要だ」としたが、県独自の制度については「いま時点で直ちには考えていない」と答えた。県男女共同参画課は「宇部市の導入の際も、市民の方々の理解が進んでいないという課題があったと聞く。国の法整備の動向も見据え、当面は県民への啓発に取り組みたい」としている。

 一方で、山口市や下関市、山陽小野田市などはリーフレット作成や当事者を交えた講座の開催に取り組んでいる。下関市では市ホームページに当事者らからの相談を受け付けるための窓口を設け、平生町は今年1月に制度を始めた広島市と情報交換を進めている。

 ホルモン治療や面談などを通じ、性的少数者への支援に取り組む宇部市の針間産婦人科の金子法子院長(59)は「(制度は)あくまで現時点で困っている人たちを救う制度。従来の家族のあり方を否定したり社会の風紀が変わったりするものではない」と理解を求め、「いろんな性のあり方を認める街です、と宣言する自治体が宇部市に続いてでてきてほしい」と話す。

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 〈宇部市パートナーシップ宣誓制度〉 法的に結婚が認められていない性的少数者のカップルを市が家族として公認する。市内で同居か同居予定の成年カップルが対象で、市役所かオンライン上で市職員の前で宣誓する。市が交付する証明書を示すと、市営住宅への入居といった行政手続きのほか、病院での面会や手術同意など民間でも法律婚のカップルと同様のサービスを受けられるようになる。

 東京都渋谷区と、認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪市)の共同調査によると、7月1日現在、全国では110自治体が同様の制度を導入している。2015年に東京都渋谷区と世田谷区が始めた。