コロナ感染者数だけでなく「実効再生産数」にも注目を

酒井健司
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 デルタ株が増えています。新型コロナウイルスの従来株と比較して感染力が強いからです。感染力の強さは「基本再生産数」という指標で表します。その病原体に免疫を持っている人がまったくいない集団において、1人の感染者が何人に感染させるかという数値です。基本再生産数は従来株で2.5ぐらい、デルタ株は5~8ぐらいだとされています。

 詳しい方は、実際の再生産数はそんなに高くないことをご存じでしょう。この原稿を書いている2021年7月下旬の時点での東京の「実効再生産数」は1.3前後です。現実の世界では、既感染やワクチンによって免疫を持っている人がいますし、人流抑制やマスク着用などの感染対策が取られています。基本再生産数はまったくノーガードで最大限にどれぐらい感染者数が増えるかを表し、実効再生産数は現実の世界で実際にどうだったのかを表しています。

 1以上の実効再生産数が続くのは、感染者数が指数関数的に増加することを意味し、きわめてまずいです。これまでは緊急事態宣言や、感染者数が増加して不安になった人たちの自粛によって、実効再生産数は下がりました。ただ、緊急事態宣言も不安からの自粛もどちらも慣れが生じます。東京は7月12日から4回目の緊急事態宣言が発令されていますが、いまのところはそれほど効き目はないようです。それに「お祭りムード」は感染対策にはマイナスの影響を与えます。

 感染予防効果のあるワクチン接種は実効再生産数を下げます。日本ではすでに約35%の方が少なくとも1回目のワクチン接種を受けており、もしワクチンがなければもっと多くの感染者が出ていたことでしょう。しかし、ワクチンの接種スピードは限界があり、ワクチンだけに頼って実効再生産数が1以下になることはしばらくは期待できません。ワクチン接種を続けることは当然ですが、加えて別の対策が必要です。

 感染者数は無限には増えません。対策を行わなくてもどこかで自然に減少します。ただそれは望ましいシナリオではありません。爆発的に感染が拡大し、多くの人が(ときには後遺症を残しつつ)治癒するか死亡して免疫がない人が減れば、実効再生産数は自然に下がります。パンデミック初期の武漢や北イタリア、最近ではインドやインドネシアで起こったことです。いわゆる医療崩壊です。重症者数や死亡数は感染者数のピークから遅れて上がりますので、それから対策を打っても遅いのです。

 実効再生産数が1より大きいか小さいはきわめて重要です。感染者数1000人、実効再生産数が1.1だと、世代ごとの感染者数は1100人、1210人、1331人、1664人、1772人とどんどん増加します。実効再生産数を0.2だけ下げて0.9にできれば、世代ごとの感染者数は900人、810人、729人、656人、590人、531人と下がります。医療崩壊を避けるためには実効再生産数を下げる必要があります。感染者数や重症者数も大事ですが、実効再生産数にも注目し、1以上であれば何かしら対策を追加すべきです。日本の感染者数が「自然に」減少する前に有効な対策が打たれることを願います。(酒井健司)

酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ)内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。