得意技をあきらめる。簡単なことではない。それが金メダルを取った技ならなおさらだ。
東京オリンピック(五輪)で連覇を狙うレスリング女子68キロ級の土性沙羅(東新住建)の場合、それは、1ミリ単位の精度にこだわるタックル。悩み多き5年間で、土性はあきらめると決めた。そう、金メダルのために――。
21歳で初出場した2016年リオデジャネイロ五輪は、代表には、吉田沙保里や伊調馨がいた。「今は引っ張っていく立場」。その気持ちとは裏腹に、存在感は薄かった。
けがで笑顔がくもった。 18年4月、脱臼癖のあった左肩を手術した。
「完全によくなるって思い込んでいた」
しかし、ボルトを入れた肩はしびれ、力が入らなかった。
退院後も腕を固定する生活で、茶わんは持てず、自分で髪を結ぶこともできなかった。
肩の痛みが、自慢の正面タックルの鋭さを奪った。恐怖心から、思い切り相手の懐に入れない。
メダル獲得で代表内定だった19年9月の世界選手権は5位に終わった。
「攻めきる勇気がなかった。自分は落ちて、海外勢(の力)は上がっている」
ぼうぜんとした…