帰れぬロヒンギャ 難民認定に壁、不安定な生活強いられ

伊藤繭莉
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 【千葉】2月のクーデターで混乱が続くミャンマー。4年前から国外に大量流出した少数民族「ロヒンギャ」は、ミャンマーに帰還できずにいる。ロヒンギャをめぐる難民の問題は千葉県内にもある。安住を求めて来日したが、不安定な生活が続く一家がいる。専門家は難民認定をしない日本政府の対応を批判している。

 市川市に住むサイド・アハメドさん(75)は、ミャンマー西部ラカイン州出身のロヒンギャだ。仏教徒が多いミャンマーでは、イスラム教徒のロヒンギャは「不法移民」などとみなされ、国籍がない。

 サイド・アハメドさんが住んでいた村では、当局がロヒンギャを監視し、家に押し入ったり、財産を奪ったりしていたという。

 軍事政権だった1990年、小学校の校長として、生徒たちに民主主義の大切さを説いた後、当局に拘束された。2008年にも理由がわからず、逮捕された。16年には、警察署の逮捕者リストに自分の名前が張り出されていると聞き、妻らと隣国に逃げた。

 長男(46)は10代で民主化運動に参加し、身の危険を感じて国外に逃げ、03年に来日していた。その長男を頼り、妻らと17年に来日した。母国のような身の危険を感じないが、不安定な生活が続く。

 日本では、難民認定を受けると、定住者として5年間の在留資格や就労、国民健康保険の加入が認められる。一方、多くのロヒンギャは国籍がないため、正規の旅券で入国できず、退去強制の対象となる場合が多い。

 サイド・アハメドさんは来日後、17年に難民認定を申請したが、まだ結果が出ていない。その後、収容を一時的に解く「仮放免」という措置となった。仮放免は、就労ができず、原則県外への移動も認められず、国民健康保険に加入できない。子ども4人を抱えた長男一家と暮らすが、レストランなどを経営する長男の収入に頼るしかない。

 今年3月には、肺炎になり入院した。退院後も病院に通うが、国民健康保険に入れないため、医療費は全額負担。同じく仮放免である妻(63)は、白内障で2年近く、片目が見えない。新型コロナウイルスの影響で、通訳を入れた手術ができなかったが、来月ようやく手術ができる見通しだ。だが、その手術費用も全額負担だ。長男は、今後も増えると見込まれる両親の医療費に頭を抱えている。

 ミャンマーでは、17年の国軍による掃討作戦で約70万人のロヒンギャが隣国に逃れ、帰還できずにいる。今年2月にはクーデターが起き、国軍は今も抗議する市民を激しく弾圧している。サイド・アハメドさんは「軍事政権は危険で、絶対に戻れない」といい、難民認定を求めている。

 在日ビルマ人難民申請弁護団代表の渡辺彰悟弁護士は、「仮放免では就労ができず、生きていけない」と政府の対応を問題視する。「ロヒンギャは明らかに迫害を受けている」と訴えるが、ロヒンギャで難民認定を受けたのは、20人程度にとどまるという。

 難民として認められにくい理由について「認定の基準が高い上、ミャンマー政府に配慮して、人権侵害を認める難民認定をしないのではないか」と指摘する。(伊藤繭莉)

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 ロヒンギャ ミャンマーのイスラム系少数民族。仏教徒が多いミャンマーでは、「不法移民」などとみなされ、国籍がない。2017年の国軍の掃討作戦を機に約70万人が隣国バングラデシュに逃れて難民となった。ミャンマー政府は19年、「ジェノサイド(集団殺害)」をしたとして国際司法裁判所(ICJ)に訴えられたが、ジェノサイド行為を全面否定している。昨年1月には、ICJからジェノサイドにつながる迫害を防ぐよう命じられた。

 日本では、在日ビルマロヒンギャ協会によると、群馬県館林市周辺を中心に300人のロヒンギャが暮らす。庇護を求めて来日し、その後、家族を呼び寄せた人が多いという。