「失敗しない男」。体操界で萱和磨はそう呼ばれる。言葉通り、落下などのミスをほとんどしないことからついた名だ。
だが、本人は「失敗しないということだけなら、その名前はいらない」。五輪のメダルは、ミスをしないだけでは取れないと考えるからだ。
だから、攻めた。決勝に向けて準備していた「秘密兵器」がある。
F難度の「ブスナリ」。あん馬の上で倒立したまま体を1回ひねる大技だ。団体では安定感を優先して封印したこの技を採用した。演技冒頭に入れ、難度を示すDスコアを予選の6・4から6・6に上げた。
「攻めた構成でメダルを狙った上で失敗しないのが僕の目指すところ」。団体を優先するため、普段はこの構成をほとんど練習しない。それでも6・4の構成を何度も練習する中で、ブスナリも単発で取り組んできたから「大丈夫」だった。見事に通しきった。
以前は「体操がきれいじゃない」とも言われた。5年前のリオデジャネイロ五輪は補欠として現地に行った。悔しくて、帰国後は空港から体育館に直行した。
ミスした箇所は成功するまで練習を繰り返した。そうすることで「角がある演技も、いつかきれいなマルになる」と信じて。
各選手の予選の点数を見て「レベルが高い」と感じた。同時に「絶対にあきらめない」とも決めた。
決勝の緊張感で落下する選手も多い中、萱はワールドクラスの「失敗しない男」になった。(山口史朗)
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