ホテル個室を避難所に、快適さと同居の孤独 財政も課題

浪間新太、山口啓太
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 大規模な土石流災害の発生から3日で1カ月となる静岡県熱海市では、ホテルや旅館を避難所として使う取り組みが続いている。避難者から快適さを評価する声が上がる一方、個室での生活による孤独感に悩む人も出ている。財政負担も課題だ。(浪間新太、山口啓太)

 「過ごしやすいし、プライバシーも確保されている。快適です」。市が避難所として用意した温泉旅館「熱海金城館」に避難する関沢浩さん(54)は言う。

 土石流の直後、公民館や小学校など約10カ所に身を寄せた500人超の被災者は、7月5日朝までに市内のホテルへ移動。原則として1世帯ごとに1部屋が充てられ、8月1日正午現在も2カ所で303人が生活する。

 関沢さんは、仕事で外出中に伊豆山地区の自宅アパートが被災。数日間、職場が手配した市内のホテルで過ごした後、市が用意したホテルで7日から過ごす。部屋は6階の8畳間。食事は1日3回提供され、朝夕はバイキング形式だ。

 深夜に配送関係の仕事に出かけるが、個室なので周りを気にせず目覚ましをかけられる。「外出するのもうしろめたくない」

 個室だからこその悩みも浮かぶ。

 7月3日から避難生活を続ける岩本とし子さん(78)も、熱海金城館に1人で身を寄せる。1人暮らしの自宅では趣味の観葉植物を育てるのが楽しみだったが、いまは個室で1人で過ごすことが多く、気晴らしもできない。「1人で個室にいると、災害当日のことやこの先のことを色々考え込んでしまう」と明かす。

 「人の声も聞こえないし、さみしい。気が紛れず、つらい」

 市によると、7月5~10日には医師や保健師らが全避難者の個室を訪ねて心身の健康状態を確認。現在も避難所には被災者がいつでも相談できるよう、臨床心理士による健康相談ブースを設けているという。

東日本大震災、避難所における疲労の影響で…

 災害時に自治体が用意する避難所といえば、体育館や公民館が多い。ただ、住環境や食生活の改善の必要性は、災害のたびに指摘されてきた。突然、他人との共同生活が始まるうえ、雑魚寝状態の避難所も少なくないからだ。

 復興庁の調査では、東日本大震災の被災地である岩手、宮城、福島3県で2012年3月末までに震災関連死で亡くなった1263人のうち、638人の原因が「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」だったという。

 熱海市がホテルに白羽の矢を立てたのは、避難者の健康管理・ストレス軽減にくわえ、新型コロナウイルス対策のためだ。「3密を回避し、コロナの感染拡大を防ぐことが地域の医療体制の安定にもつながる」と市の担当者は説明する。

 観光地として宿泊施設が市内に多い事情もある。

 一方、ホテルは無料で使えるわけではない。市がホテル側に支払う具体的な金額は固まっておらず、市の負担がどこまでかさむかは見通せない状況だ。それでも斉藤栄市長は7月30日、「(市の)負担は大きくなるが、長期的な避難者の心身に及ぼす負の影響などを考えると、支出に見合った効果がある」と述べ、「ホテル避難所」の利点を強調した。

 2016年に豪雨に見舞われた岩手県岩泉町も、ホテルを避難所にした。9月から約4カ月間、1日最大156人を町内のホテルに受け入れた。町によると、費用は約5300万円だった。町は国などに財政支援を要望。災害救助法の特別基準が適用され、国と県が全額まかなったという。

3密回避に画期的 心のケアが課題

 《立木茂雄・同志社大教授(福祉防災学)の話》 熱海市の取り組みは「3密」回避などコロナ対策を考えれば評価できる。コストを低くおさえられれば、画期的な避難所のあり方として広がる可能性もある。生活環境が改善されても、なお避難者への心のケアは課題として残る。朝のラジオ体操を採り入れるなど、定期的に自分たちで話し合い、つながりを維持できるルールを決めることも大切だ。