ドラァグクイーンはゲイのもの?差別に泣くトランス女性

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板垣麻衣子
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 先日、ネットフリックスでトランスジェンダーが主人公のドラマPOSE(2018~2021)を見ていたら、興味深いシーンがあった。

 舞台は1980~90年代のニューヨーク。ダンスフロアをランウェーに見立て、華やかな衣装とダンスを披露するサブカルチャー「ボール」の世界を描く。担い手は主に黒人やラテン系のトランスジェンダーやゲイたちだ。

 ある日、主人公のブランカ(ラテン系トランスジェンダー女性)がバーに入ると客からの視線が刺さる。店長は「女装はごめんだ」。ここは白人向けのゲイバーで、非白人のトランスジェンダーの入店はお断りと言いたいのだ。

 シーンが物語るのは、性的少数者の中でもとりわけ黒人・ラテン系のトランスジェンダー女性が周縁化されていたという歴史的事実。大都市ニューヨークでも、属性によって細かいすみ分けがあったのだ。

 きょうびメディアで「LGBTQ+」という言葉を見かけない日はなくなったが、性自認の違いや人種が複雑に絡み合い、性的少数者コミュニティー内にも分断があったことに気づかされる。一緒くたにして「ダイバーシティー」と言祝(ことほ)ぐのは、マジョリティーのおめでたさというものだろう。

 ドラマは80年代の話だが、トランスジェンダー当事者の人権が立ち遅れている状況は今でもあまり変わらない。スポーツ参加や性自認に基づくトイレの使用可否をめぐって、日本でもアメリカでも論争が続いている。

 恐怖が、えたいの知れない存在に対する防衛本能からくるのだとすれば、まずは素顔を知ることから始めたい。映画やドラマを通じて、当事者が表舞台に出ること(representation)が大切なのはそのためだ。

 POSEは50人以上の登場人物にトランスジェンダー俳優をキャスティングした画期的なドラマで、ゴールデングローブ賞にもノミネートされた。だが、これまで映像制作の現場がトランスジェンダー俳優の起用に積極的だったとは言いがたい。

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「POSE」の出演者たち。番組の公式インスタグラムから

 POSEに出演した俳優のアンジェリカ・ロスは、地上波NBCのインタビューで、トランスジェンダー役のオーディションでしばしばキャスティング担当者から「トランスジェンダーっぽく見えない」「視聴者が混乱する」と言われ、役を逃した経験があると明かす。

 事実、彼女も含めてPOSEに出演しているトランスジェンダー女性らは、とてつもなく容姿が洗練されており、私は途中まで女性が演じているのだと思い込んでいた。だが、「本物の女性」や「トランスジェンダーぽさ」なんて、部外者の身勝手な先入観でしかない。

 アンジェリカは、当事者ではない俳優がトランスジェンダー役を演じることも、演技というアートの妙味だとしつつ、トランスジェンダーに対する偏見が根強い現段階では、当事者を起用した「本物に近い表象(authentic representation)」が必要なのではないかと言う。

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POSE出演の俳優アンジェリカ・ロスのインスタグラムから

 LGBTQコミュニティーの内外から二重の抑圧を受けていたトランスジェンダー女性。ドラァグ界の次世代スターを発掘するリアリティーショー「ル・ポールのドラァグレース」(2009~、ネットフリックスで視聴可)でも数年前、とある騒動があった。

「ドラァグレース」のシーズン5で、審査員の前で突然、「みんなにウソをついていた」と泣き出してしまった参加者。なぜウソをついたのか。彼女が語るドラァグ界の内情は、衝撃的な内容でした。

 ドラァグはボールとも近い…

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