「透明な指」が導く先へ 芥川賞・石沢麻依さんエッセー

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 第165回芥川賞に「貝に続く場所にて」で選ばれたドイツ在住の石沢麻依さん(41)に、エッセーを寄せてもらいました。受賞会見で口にした「恐ろしい」という言葉の真意とは――。文人たちへの思いとともにつづります。

 いしざわ・まい 1980年、仙台市生まれ。ドイツ在住。大学院の博士課程で、ドイツルネサンス美術を研究する。今年、群像新人文学賞を受賞しデビューした。

 受賞が決まった翌日、私は寺田寅彦の前に寿司(すし)の箱を置いた。本を小机に並べ、スーパーで買った小さな寿司のパックを捧げたのである。この小説がひとつの形に向かう時、行き先を示す透明な指となった彼の言葉への、ささやかなお礼のつもりだった。なぜ寿司なのかと言えば、寺田寅彦が夏目漱石に寿司をふるまわれた時、奇妙な食べ方をしたという逸話があるからだ。漱石が口に運ぶのとそっくり同じように摘(つ)まんだという。その鏡像性を巡るエピソードのために、私の中でこの作家と寿司が強く結びつけられている。

 寿司を置いた際、本に向かっ…

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