陸上の泉谷、半泣きの惨敗が変えた SNSの批判「気にせず頑張る」

陸上

堀川貴弘
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 東京オリンピック(五輪)陸上トラック種目で、今季のタイムを見て、日本選手で最もメダルに近い選手と言えば、陸上男子110メートル障害の泉谷駿介(順大)だ。

 6月の日本選手権で出した日本記録13秒06は今季世界3位で、今大会に出場する選手では2番目の記録だ。日本選手初となる決勝進出の期待がかかる。

 泉谷の母校、神奈川・武相(ぶそう)高の陸上部監督、田中徳孝教諭(58)が日本選手権後、LINEでお祝いのメッセージを送ったところ、返事が来た。

 「自分1人じゃここまで来られませんでした。自分が変わったのは、2年の岡山インターハイです。先生のおかげです。ありがとうございます」

 2016年、高校2年の泉谷は8種競技で、県大会を3位、南関東大会も3位で、岡山で開かれた全国高校総体(インターハイ)へ出場を決めた。ところが、入賞を狙った全国では14位に沈んだ。「まだまだ考えが甘かった。あの時の悔しさは今でも覚えています」と泉谷は振り返る。

 「とんとん拍子にインターハイまで行って、自信があったんでしょうね。悔しがって、悔しがって」。田中監督の記憶にも刻まれている。

 夕食時、半泣きの泉谷はぽつりと言った。「どうやったら強くなりますか?」。田中監督は「練習しかないよ」と返した。

 この惨敗をきっかけに泉谷は変わった。

 食生活から改善した。「ジャンクフードをいっさいやめて、嫌いだった野菜を食べるようになった」。母の協力も得て、きゃしゃだった体つきに変化が現れた。田中監督は「練習も集中できて、その年の秋から自分を超えたところがあった」と振り返る。

 厳しい冬季練習にも耐え、泉谷は高校3年の全国総体で、8種競技は優勝、三段跳びでも3位に入った。

 泉谷は高校時代をこう語る。「田中先生には自分の体をよく理解していただいて、それが今に生きている。細かいことは言われずに自分たちで考えて練習したのが良かった」

 最近、泉谷はある騒動に巻き込まれた。東京五輪が無観客で開催される方向になったことについて報道陣から聞かれ、言葉を選びながらこう言った。

 「無観客でもテレビの前でみんな見てくれていると思って頑張っていきたい。感動させる走りをしたいので、(無観客は)悲しいなとは思いますが……」

 極めて普通のコメントだったが、ネットやSNSで「悲しい」という部分が切り取られた。「開催されるだけでも感謝しろ」といった批判が相次いだ。

 心配した田中監督がメッセージを送ると、すぐに返答が来た。「気にせず頑張る」という趣旨のことが、力強い言葉で書き込まれていた。「たくましくなりましたよね」と、田中監督は感心しきりだった。

 かつて110メートル障害は、日本が世界から最も遠い種目と言われた。もちろん、日本選手が決勝に行ったことはない。記録面でも精神面でも一皮むけた泉谷は誓った。

 「決勝で13秒0台を出したい」

 21歳にはその勢いがある。(堀川貴弘)