橋本大輝、難易度より美しさを求めて金 冨田や内村も追求した伝統

体操

山口史朗
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 「すごい攻めているな」

 8選手中、7番目に演技をする橋本大輝は、ほかの選手たちを見て感じた。世界のスペシャリストたちが予選よりも演技難度(Dスコア)を上げてきた。

 直前に演技をしたスルビッチ(クロアチア)もDスコアを0・3上げて、橋本と同じ「6・5」の構成で演技を通してきた。14・900点。これがターゲットとなった。

 橋本にも選択肢はあった。冒頭の手放し技、G難度のカッシーナとE難度のコールマンを単発から連続にする。これでDスコアを6・8に上げられる。その構成も練習はしてきた。

 だが、橋本はそうしなかった。2日前に「やらない」と決めた。日本代表の水鳥寿思監督が言う。「橋本選手の演技は難度の高さが目を引くかもしれないけど、『Eスコア』も大事だと、彼は分かっている」

 Eスコアとは技の完成度や美しさを示す。金メダルを獲得した2004年アテネ五輪の団体総合でエースだった冨田洋之、そして内村航平も追求してきた「体操ニッポン」の伝統でもある。

 いざ鉄棒を握ると、橋本は予選と同じ構成で演技をした。倒立の角度、ひざやつま先をしっかり伸ばすなど、美しさの基本を強く意識しながら――。

 そして、最後の着地はEスコアを大きく左右する。冨田も内村も、鉄棒の着地を確実に止めて金メダルを獲得してきた。

 日本の新エースも「最後の着地勝負になると思っていた。止めにいった」。

 「どん!」という音が無観客の会場に響く。滑り止めの白い粉が舞った。マット上に仁王立ちするように、19歳が拳を握った。

 15・066点。Dスコアが同じでも、Eスコアでスルビッチを上回った。難度に上積みの余地を残しつつ、橋本は「美しさ」で勝ったのだ。山口史朗

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