漫画家 楠本まき 線と言葉に宿る美学 37年をたどる

富岡万葉
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 「KISSxxxx(キス)」「Kの葬列」などで知られる漫画家・楠本まきの美学は、線と言葉に集約されている。その精巧な世界を、京都国際マンガミュージアム京都市)で開催中の「線と言葉・楠本まきの仕事」展でうかがえる。

 楠本は1984年に16歳で「週刊マーガレット」(集英社)にデビュー。耽美(たんび)な作風と既存の価値観にとらわれない人物描写は熱狂的な支持を得て、ファッションや音楽の分野にも影響を与えた。今展には原画、手の込んだ装丁の愛蔵版を含む全書籍、小道具といった約120点が並び、37年間にわたる仕事を通覧できる。

 会場の壁は黒と赤を基調に、作品中のセリフがちりばめられている。

 「君が見ている『赤』という色は 私が見ている『赤』という色と同じだろうか?」

 これはジェンダーバイアスなどに触れて多様性を扱った「赤白つるばみ」からの引用。詩のようであり、時に視覚的、聴覚的な印象を与えるセリフ回しは楠本が得意とするものだ。

 約30点の原画は強弱のない細い線で描かれ、修正の跡がほとんどない。「Kの葬列」の黒いベタは、印刷すると見えなくなる紙の端まで定規で引いたように塗られている。「戀愛譚(れんあいたん)」の一場面には、7枚の印刷サンプルが用意された。紙の種類を変え、さらに黒や銀の色みを微調整して見え方を確かめたという。

 美学の極め付きが校正で、ある校正紙には8回目の直しとして、吹き出しの中の文字を「0・15ミリ上に」移動させるよう書き込んでいる。

 本展を担当したユー・スギョン研究員は「全てに楠本先生の世界が反映されている。美しさはこうして作られ、偶然に生まれたものは何一つない」と話す。

 30日まで。(富岡万葉)