官邸巻き込んだ「花博」、開発進むはずが…横浜市の誤算

横浜市長選挙

武井宏之
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 米軍上瀬谷通信施設跡地(横浜市瀬谷、旭区)はいま、夏真っ盛り。草木と畑のコントラストが映えるこの地で6年後、国際園芸博覧会(花博)が開かれる。めざすのは1990年の「大阪花の万博」以来となる国内2度目の最高クラスの花博だ。

 政府は今年6月、パリに本部を置く博覧会国際事務局(BIE)から認定を得るための手続きを進めることを閣議了解した。花博が国家的イベントに位置づけられたことを意味する。

 横浜市は2016年、前年に米側から返還された上瀬谷通信施設跡地での花博開催をめざし、国に支援を要請した。18年には基本構想案をまとめ、国に花博招致を正式要請した。

 跡地はみなとみらい21地区の1・3倍に当たる約242ヘクタールもの広さがある。国家的イベントを起爆剤とし、国からインフラ整備のカネを引き出し、開発を一気に進める狙いがあった。

 「自民党と造園業界が力を入れたから進んだ」。花博招致の経緯を知る関係者の多くはこう語る。

「菅さんが段取りつけてくれた」

 関係者への取材を総合すると、経緯はこうだ。

 跡地の返還前、自民党市議や造園業界の幹部らが首相官邸を訪ね、当時の菅義偉官房長官(現首相)に花博について説明し、招致への協力を求めた。返還直後には、菅氏との面会に居合わせた和泉洋人首相補佐官が現地を訪れ、地元関係者とバスで視察した。これらの前後に、和泉補佐官は国土交通省などの幹部らを官邸に呼び、花博開催への流れが強まっていった――。

 自民党関係者は「菅さんが国に段取りをつけてくれた」と受け止める。

 跡地は市街地化が抑制された区域にあり、自治体が土地区画整理事業を行えない。このため、市は国に構造改革特区計画を申請し、特例的に事業の実施が認められた。事業費は約600億円。地権者が一部負担するほか、国費や市費が投じられる。

 跡地は最寄りの相鉄線瀬谷駅から約2キロ北に離れ、交通アクセスが今後の開発のカギを握る。市は大半の区間で地下トンネルを掘削し、新交通システムを通すことを決めた。事業費は約700億円。うち市が建設費約410億円を負担し、国からの補助金も見込む。

 市の幹部は「上瀬谷の基盤整備は市にとっての大きな課題だから、国のおカネが入ってくればと、自民党などの動きに乗ったところはある」と語る。

テーマパーク、相鉄が断念

 だが、誤算があった。

 市は花博後の跡地で、年間1500万人を集客する核としてテーマパーク開発を見込み、その輸送手段に新交通システムを位置づけた。しかし、テーマパークを検討していた相鉄ホールディングスが今春、検討を断念。大手不動産会社が引き継ぐ方向だが、テーマパークの検討は振り出しに戻り、具体的な計画は明らかになっていない。

 また、新交通の瀬谷新駅は地面から掘削して地下に造るが、付近は市街地のため、駅位置決定が難航し、3月末までに予定していた国交省への許可(特許)申請は先送りしたまま、めどが立っていない。

 それでも、市は新交通を花博までに開業させる目標を変えていない。このまま強行すれば、新交通は花博に間に合わず、花博後に新交通が開業しても、テーマパークはできていないという最悪のケースも絵空事ではない。

 市が国の会議に提出した基本計画案では、花博会場への輸送計画に「新たな交通システム」を明記している。国とBIEの協議を経れば、それはいわば「国際公約」にもなる。

 「あれほど国を巻き込んで花博を進めた以上、市は引っ込みがつかなくなっているのではないか」。複数の市関係者からはこんな懸念の声が上がる。

 新交通は花博に間に合うのか。もし間に合わなければ、代替の輸送手段はどうするのか。8月22日投開票の市長選で当選した新たな市長は、現状を見極め、場合によっては難しい決断をすることが迫られる。武井宏之

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 <米軍上瀬谷通信施設と花博> 戦後まもなく接収された米軍上瀬谷通信施設は2015年6月、日本に返還された。面積は約242ヘクタールあり、民有地が約45%、国有地が約45%、残りを市有地が占める。横浜市は昨年3月にまとめた土地利用基本計画で「郊外部の新たな活性化拠点」と位置づけ、観光・にぎわいや農業振興など4ゾーンに分けて開発する方針を示している。

 国際園芸博覧会は27年3~9月、跡地南部の約100ヘクタールで開催。「幸せを創(つく)る明日の風景」をテーマに展示施設を配置し、オンラインを含めた参加者は1500万人を見込む。国と自治体、民間が負担する会場建設費が320億円、入場料収入などを充てる運営費は360億円と試算する。

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