水上にひらく笑顔の花 日本人が支えたスペインチーム

河崎優子
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 息の合った、一糸乱れぬ演技で競い合うアーティスティックスイミング(AS)。6日夜に出場するスペイン代表8人は、フラメンコの曲と曲の間に、日本のCMソングにあわせた手話をする。コロナ禍を日本人コーチの藤木麻祐子さん(46)と乗り越えてきた、その結晶だ。

 新型コロナの感染拡大で、スペイン政府が緊急事態を宣言したのは昨年3月だった。代表候補選手らの練習拠点だったバルセロナのトレーニングセンターも閉鎖された。五輪最終予選まで1カ月しかなかった。

 寮を出て実家でバラバラに暮らすようになった選手たちを見て、藤木さんはすぐに行動をおこした。気持ちまでバラバラになったら、演技も乱れる。「とにかく不安にさせたらあかん」

 朝8時から筋トレ、9時から振り付け……。細かなメニューを送り、毎日オンライン会議システムでASの動きを合わせた。通信環境の悪さのせいか、動きが5秒もずれる選手もいた。

 五輪について学ぶ時間も設けた。メンバーの大半は10~20代で、1992年バルセロナ大会の記憶がない。大会のマラソン日本代表で銀メダルを獲得した有森裕子さん(54)にオンラインで体験を語ってもらい、元スタッフからは運営側の苦労を聞いた。アリサ・オソヒナオソヒン選手(20)は「五輪に出られることは人生の中でも貴重な経験。幸せなことだと感じた」。

 再びセンターで練習できるようになった昨夏。メリチェル・マスプハダス選手(26)は一体感と団結力が深くなったのを感じた。「オンラインのコミュニケーションがあったからこそ。おかげでプールでさらに磨きをかけることが出来た」

 毎朝同じ時間に集まり、陸上で動きを合わせてからプールに入る。演技に「手話」を取り入れたことは、気持ちの表し方を選手たちに改めて考えさせた。

 大阪出身の藤木コーチのつてで、聴覚障害がある大阪の子供たちとオンラインで交流した。自己紹介をしたり会話したりする中で、オナ・カルボネルバリェステロ選手(31)は表情の大切さに気付いた。手話では表情が重要な意味を持つ。「でもコロナでみながマスクを着けている。意思疎通が大変だろうなと考えられるようになった」

 水上の演技をどんな表情で行えば、見ている人に気持ちが伝わるのか。インターネットで手話の動画を見るなどして、選手たちは様々に試すようになった。

 今年5月の欧州選手権は無観客での開催となったが、演技後、たくさんの応援が寄せられた。「無観客の客席の向こう側で、たくさんの人が見てくれていた」と藤木さんは言う。

 五輪本番の演技は約3分間。その中で披露される手話は、こんな意味を持つ部分がある。

 《支えてくれる人がいるから、私は心強い》

 チームがたどった日々。カルボネルバリェステロ選手は言う。「ここに来られた深い感動を伝えたい」(河崎優子)