第2回産休申し出た途端「辞めて」 女性研究者が実験台を殴って耐えたのは

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藤波優
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 ここで我慢しなければ次はない。絶対に、この人とケンカはできない――。そう自分に言い聞かせ、言い返したい思いをのみ込んだ。

 生物系の分野でポスドク(博士研究員)をする女性は30代のとき、研究室の代表に産休を取りたいと申し出た。すると、がくぜんとする言葉が返ってきた。

「後釜決めたから、辞めて」

 ショックだった。腹が立った。と同時に頭をよぎったのは、「推薦書」のことだった。

 ここを辞めて次の研究室に転職するには、推薦書が絶対必要だ。

 「ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした。もしこの先、私でお役に立てることがあれば、いつでも協力させていただきます」

 丁寧に頭をさげ、一言も反抗せずに身を引いた。おかげで代表は、すんなりと推薦書を書いてくれた。

 妊娠がわかったのは、報告の数カ月前だった。ふだんから代表は「結婚している女は使えない」と公言していたため、結婚していることさえひた隠しにしてきた。

 だから妊娠がわかったときは、戸惑いの方が大きかった。「ここで研究を続けるには、おろすしかない」。本気でそう考えた。

 子どもがいる女性の准教授に相談すると、「欲しいなら、子どもも仕事も手に入れなさい。何があっても、どんな形でもしがみつきなさい」と背中を押され、産む覚悟を決めた。

 それでも代表には言い出せず、妊娠初期のつわりは必死に我慢した。「ご飯が食べられないほど気持ち悪い日もあったけど、食べなかったらバレると思い、無理して食べていました」

 おなかが大きくなってきて隠せなくなり、とうとう妊娠を報告した。このときは何も言われず、「残れるのかも」という淡い期待を抱いていた。それなのに、産休を申し出た途端に「辞めて」とは。

 「むかつきましたよ、もちろん。でも推薦書が全てです」

 推薦書のために上の顔色をうかがい、我慢を重ねて気をつかっている研究者は、知人にもたくさんいる。

 言いたいことをこらえて手に入れた推薦書のおかげで、別の大学の助教の職が決まりかけた。だが、直前になって断られた。

 「採用の会議で『産休をとるような女をとるのか』という意見が出た」と、代表からは聞かされた。代わりに採用されたのは、男性研究者だった。

 推薦書をめぐり、女性には過去にトラウマがあった。

 大学4年生のとき、初めて所属した研究室でのことだ。

キャリアアップに必要な「推薦書」。女性が抱えるトラウマとは?女性は「いけにえ状態」だったと振り返ります。

 入ってすぐ、一緒に実験を進…

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