言葉に支配される人間 体の共鳴、情報技術に明け渡すな
コラム「科学季評」 人類学者・山極寿一さん
新型コロナウイルスによる感染者の急増で、再び各地で緊急事態宣言が発令され、3密を避ける制約が強化されている。対面のコミュニケーションが禁じられて、人と会えない不満がたまりつつある。一方、テレワークやオンラインの会議が普及して、メールやSNSの情報通信技術を用いれば、かえってコミュニケーションがとりやすくなっているという意見もある。ただ、フェイクニュースやヘイトスピーチ、風評被害など、言葉でだまされ傷つくことが増えると、言葉で世界を作ってきたはずの人間が、逆に言葉に支配されて苦しんでいるような気がしてくる。
いったいコミュニケーションとは何だろうか。私たちは何を伝え合っているのだろう。
長年、野生のゴリラと付き合ってわかったことは、心を読むのに言葉は要らないということだ。ゴリラは人間より体が大きく、強大な力を持っている。長く鋭い犬歯でかまれれば命を失う危険がある。実際、私は2頭のメスに襲われ大けがをした。だから、気持ちを読み違えれば大変なことになると自覚している。
でも仲良くなれば、ゴリラは…