核禁条約メリット、デメリットは? 2人の識者に聞く

有料会員記事核といのちを考える

聞き手・福冨旅史、笹川翔平 聞き手・笹川翔平
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 広島、長崎への原爆投下から76年。この夏、両都市は、核兵器を「違法」とする核兵器禁止条約が発効してから初めての「原爆の日」を迎えます。被爆者らからは、日本も条約に署名・批准するよう求める声が上がっています。来年1月には条約を批准した国々が集まり、核兵器をなくしていくための具体的な方法などを話し合う「締約国会議」が開かれる予定です。条約に加わっていない国でも、この会議には参加できます。日本の会議参加はあるのか。条約の今後の行方は。条約成立に尽力した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の川崎哲・国際運営委員と、日本政府のウィーン代表部参事官として外交交渉に関わった経験もある秋山信将・一橋大教授に聞きました。

変わる世界、日本は何をしている ICAN川崎さん

――条約発効から半年。現状をどう見ますか。

 発効後もセーシェルが加わって批准国・地域は55になっています。秋から冬に向けて署名・批准を準備している国も結構あって、大変励まされます。

写真・図版
インタビューに答える国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の川崎哲・国際運営委員。撮影時のみマスクを外してもらった=2021年7月29日、広島市中区の朝日新聞広島総局、笹川翔平撮影

 日本の国会議員と話をしても、条約が無視できないものになっていることをものすごく実感します。いまや条約を否定したり、意味がないと言ったりするような主張は少なくなってきました。

 発効によって、批准した国々が集まる締約国会議に向けた準備が動き出すなど、本当にリアルなものになったわけです。発効する前は「なんかそういう新しい条約を作った人たちがいるみたいだけど関係ないよ」と言えたけど、もう言えない。会議の招待状も日本政府に届いているわけですから。

――最初の締約国会議は発効から1年以内に開くと定められていて、来年1月にオーストリアのウィーンで開かれる予定です。どんなテーマが議論されるのでしょうか。

 大きく四つあって、「核の非人道性」「核の廃棄の手順」「核の被害者の援助」、そして「条約の普遍化」となります。四つ目は批准国をどう増やすかという意味で、一番重要な課題じゃないでしょうか。批准国を100、150と増やすためにはどうすればいいかという話し合いです。

 一方、ICANをはじめとするNGOが力を入れようとしているのは、三つ目の被害者の援助についてです。なぜなら、これは今すぐ動ける話だからです。できることから進めていくことで、この条約が動いている、現実を変えているということを示し続けていくことにもつながります。

 たとえば「黒い雨」を浴びた人が、訴訟をしないと被爆者と認定されない状態が何十年と続いた。こうしたことが議論されなければ、「核の被害者」と言った時に対象が非常に狭められてしまう可能性もあります。だから、日本での広島や長崎の被爆者の認定問題、第五福竜丸をはじめとする水爆実験被害者の受けた影響などの話を締約国会議に持って行くことは非常に重要だと思います。

――締約国会議は条約を批准していない国もオブザーバーとして参加することができます。そうした動きはありますか。

 スウェーデンスイスフィンランドは、条約に署名するかどうかは分からないですが、オブザーバー参加を決めています。問題は北大西洋条約機構(NATO)加盟国からオブザーバー参加する国があるかどうかですが、ドイツノルウェーは秋の総選挙の結果次第で可能性があります。ベルギーも昨年発足した新政権が条約に好意的な言い方をしている。この3カ国は十分あり得ます。

 アイスランドやスペインオランダデンマークにも、一部の閣僚が前向きな意見を持っているとか、議会が条約を評価する決議をしたとか、注目すべき動きがあります。

――NATO加盟国と同様、米国の同盟国である日本の政府内には慎重論が根強いです。

 条約に慎重な人の基本的な主張は、日米同盟関係に悪影響を与えるというものです。米国の反応が怖いということです。ただ、バイデン政権の中には、「別に日本が出席しても構わないんじゃないの」ととらえる人は結構いると思うんですよね。

インタビュー後半では核禁条約をめぐり、2016年に面会したオランダ外相が悩む様子を目の当たりにした川崎さんの経験が明かされます。一橋大の秋山さんは中国の脅威を強調し、核廃絶というゴールに向けた現実的な道筋を探るべきと説きます。

 それから、締約国会議のテー…

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