小児医療費、23区との格差なぜ 横浜市の懐事情を分析

横浜市長選挙

松沢奈々子、武井宏之
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 東京都世田谷区から1年半前に横浜市港北区に移り住んだ女性(38)は先日、体調を崩した3歳の息子を病院に連れて行った。

 窓口で払う医療費の自己負担は2割。「都内に住んでいたら無料なのに、とどうしても頭によぎって」。横浜市にも小児医療費助成の制度はあるが、所得制限があり、この女性の息子は対象外だ。

 「子育て世帯に優しくない」。引っ越しては来たものの、市政にそんな印象を持つ。最近、海外から帰国する友人に住む場所を相談されたが、「横浜に来なよって勧められなかった」。

 東京23区では、小児医療費の自己負担分を中学3年生まで全額助成する。所得制限はない。千代田区のように対象が18歳までのところもある。

 一方、横浜市は助成対象は中3まで。ただ、所得制限がある上に、助成対象になっても小学4年生以上は1回上限500円の自己負担がある。

 市は1995年1月に0歳児を対象に小児医療費助成を始め、助成対象を小刻みに拡充してきた。19年度には対象年齢の上限を小6から中3に引き上げたが、それでもなお、財政が豊かな東京23区には追いつけない。

 東京都大田区で同い年の妻と3歳の息子と暮らす男性(34)は、生まれ育った横浜で子育てしたいと住み替えを検討したがあきらめた。「困ったらすぐに(医療機関に)行けなくなる気がして」。小児医療費助成の違いがネックになった。

 横浜市全体の小児医療費助成額は20年度、約72億2千万円。今年度は1、2歳児の所得制限を廃止したため、約2億6千万円の上乗せを見込む。「助成は一度始めたらやめられない。限られた財源のなか、段階的に進めざるをえない」と市の担当者は話す。

 横浜市の法人市民税収は東京23区の約14分の1しかない――。

 横浜市は、東京23区や大阪市に比べて上場企業数が少なく、法人市民税が乏しいので、それを補う増収策として、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致が必要だと説明してきた。

 「大阪市の方が行政サービスを豊かにお届けできる」。昨年のIRの市民説明会で林文子市長(75)は、市民1人当たりの歳出額をもとにこう強調した。

 実際、2018年度の普通会計決算を比べると、大阪市の歳出総額は1兆7586億円と、人口が約100万人多い横浜市を上回る。市民1人当たりだと、横浜市の46・2万円に対し、大阪市は64・8万円。特に福祉や子育てなどに充てる民生費は、大阪市が10万円近く上回る。

 しかし、これは民生費に占める生活保護費の影響が大きい。大阪市横浜市より1600億円も多い2954億円。生活保護費は国が負担金を出す分、自治体の財政規模が大きくなる。

 財政規模が大きいからと言って、行政サービスが豊かだとは限らない。市内部からも「誤解を招く説明だ」との声が漏れる。

 関西圏の中心都市である大阪市と、東京のベッドタウンでもある横浜市とでは、都市の性格が異なる。

 法人市民税は大阪市横浜市の2倍以上だが、個人市民税は逆に横浜市が2倍近く。横浜市財政力指数0・97は大阪市の0・93より高く、財政的により豊かとも言える。これは東京に近く、良好な住宅地が広がる横浜市の強みだ。

 「横浜市は小さなエンジンを積んだ大型バス」

 横浜市立大学の鈴木伸治教授(都市デザイン)はこう例える。住宅都市として人口が増え、働き盛りの世代が個人市民税を多く納めてきた従来は平らな道を順調に走った。だが、超高齢化が進み、人口が減少局面に入る今後は、上り坂を登るのが大変になる。「都心部の産業の規模を大きくし、税収を上げるような取り組みが必要。ただ、それがIRなのかは別の話だ」

 さらに鈴木教授は、「これからの横浜を考える時、むしろ郊外が主戦場になる」とも言う。「拠点駅周辺の魅力を増したり、住民サービスをきめ細かくしたり、行政に求められることは多い。地域のニーズをきちんと吸い上げられるよう、市の本庁と各区の役割分担を見直すことなどが必要ではないか」

 横浜はこれからどんな都市をめざしていくのか。市長選では冷静で活発な議論が望まれる。(松沢奈々子、武井宏之

対象拡大続く横浜市の小児医療費助成(通院時)

1995年1月   0歳児対象に開始

2007年4月まで 就学前まで段階的に拡大

12年10月   小学1年まで引き上げ

15年10月   小学3年まで引き上げ

17年4月   小学6年まで引き上げ

19年4月   中学3年まで引き上げ

21年4月   1、2歳児の所得制限を撤廃

※年齢により所得制限や一部自己負担がある

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