「面白いゴルフだったよ」 代表逃した渋野日向子に笑顔を戻した一言
スマイリングシンデレラ。2年前に全英女子オープンを制し、海外メディアにそう呼ばれた22歳、プロゴルファーの渋野日向子が、大泣きしていた。
「本当に不安だらけで……。自分の力不足です」
6月下旬の米メジャー大会「全米女子プロ選手権」の第3ラウンド(R)を終えたときだ。
東京五輪代表決定前の最後の大会。各国原則「2」の代表枠に対し、この時点で渋野は日本の3番手だった。同大会で単独5位以上に入れば、2枠に滑り込む可能性を残していた。
だが、第2R終了後、一緒だった日本人キャディーが新型コロナウイルスの陽性反応を示した。第3Rからは急きょ呼ばれた現地キャディーと回ることになった。動揺もあったのか、渋野はミスを連発した。40位。五輪切符を逃した。
東京五輪が1年延期されなければ、楽々と代表入りしていたはずだった。代表決定のもとになる世界ランキングは昨年6月末で13位。当時5位の畑岡奈紗に続く日本2番手だった。
世界ランキングは、直近2年の成績をポイント化して決まるが、古い大会ほどポイント積算率が低くなる。渋野のランキングを押し上げていた「全英優勝」の貯金は、1年でどんどん減った。今年6月末では約45%に減算されていた。
波乱に満ちた自身の歩みを、今は、いとおしく思っている。
きっかけはギャラリーからの一言だ。「見ていて面白いゴルフだったよ」。全米女子プロ選手権を戦い終えた後、現地応援していた日本人から言われた。
つらかった大会も、一歩離れて見れば「悲劇」なんかじゃない。そう考えれば「すべては成長するために必要な経験と思えるようになった」。米国からの帰国直前、空港で撮影した動画で「今までに存在しない面白いゴルファーになりたい!」と宣言した。
今は、1人のスポーツファンとして、東京五輪を満喫している。「卓球も、バスケットも、柔道も見ていました」。そして何より、憧れの上野由岐子が出場したソフトボール決勝は「(優勝して)監督と上野さんが抱き合ってた瞬間の、上野さんの涙で、もうギャン泣きでした」と声を弾ませた。
「五輪よりQスクール(米ツアー予選)を上に考えている」と語ったこともあった渋野に、新たな気持ちが芽生えている。
「パリ五輪は出たい。一度は、日本代表として五輪に出てみたい」
今月19日からは3度目の全英女子オープンに挑む。3年後の大舞台に向けての、第一歩だ。(渡辺芳枝)
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