国内初の大型洋上風力発電 建設着々と
国内初となる大型洋上風力発電所が、秋田県の能代港と秋田港で建設中だ。海に風車をどうやって建て、地元にどれほどの経済効果があるのか。来年12月ごろの運転開始へ向けて工事が進む現場を探ってみた。
秋田港の道の駅にある地上百メートルの展望台から、北西の男鹿半島方面を望むと、防波堤の少し外側の海上に数本の黄色い杭が目に入る。風車の基礎だ。能代港の海上でも同様の風景が見られる。
事業を進めるのは、大手商社の丸紅(筆頭株主)など県外6社と県内7社が出資した特別目的会社「秋田洋上風力発電」(AOW)。丸紅出身の岡垣啓司社長は、同社が2011年に英国で洋上風力発電に参入した際、現地で事業責任者を務めた。「前例がなく、やりがいがある事業です。今後日本で洋上風力が拡大するかどうかの試金石と見られているので、成功事例を示して市場拡大につなげたい」と話す。
総事業費約1千億円をかけて出力4200キロワットの風車を能代港に20基、秋田港に13基建てる。合計出力約14万キロワットで、約13万世帯分の発電量を見込む。運転開始から20年間、東北電力に売電する。
風車は海底に基礎杭を打ち込む着床式。海面からの高さは約150メートルに及ぶ。工事は陸上の送変電設備工事、洋上工事、風車の供給・据え付け工事の三つに大別され、きんでん(本店・大阪)、鹿島・住友電工JV(共同企業体)、デンマーク企業がそれぞれ元請けになっている。陸上工事は9月に終わる予定。洋上では基礎工事の最中。年内に基礎工事を終え、来年4月に風車の据え付けを始める予定だ。
基礎工事は、500~800トンある基礎杭を油圧ハンマーで海底に打ち込み、その上に、基礎杭と風車の塔をつなぐ400トンほどの部材(トランジションピース、TP)を据え付ける。海上に見える黄色い杭はTPだ。
基礎杭の打設音に港近くの住民らから苦情や問い合わせが寄せられたことを受け、早朝と夜間の作業をやめた。騒音は測定しており、環境基準をクリアしているが、住民の要望を考慮したという。
基礎杭の打ち込みには自己昇降式作業台船(SEP船)を使う。この船は作業現場まで海に浮かんで航行し、クレーン作業時は4本の脚を海底に立て、波の影響を受けない高さまで船体を持ち上げて作業する。大型のSEP船が日本にはないため、800トンのクレーン能力がある英国企業のSEP船「ザラタン号」を使っている。
国内大手や海外企業の仕事が目立つが、県内企業が下請けに入る仕事もある。岡垣社長は「県内企業が技術的にできることは県内企業を起用する方針です。元請けには、その方針を踏まえて下請けを採用してもらっています」という。
AOWの出資者でもある大森建設(能代市)が中心になって6月、12人までの作業員を発電設備に安全に輸送するアクセス船を新造した。水を勢いよく噴き出して進む方式の双胴船で、投資額は約6億円。
同社は18年前に能代市内の陸上風車の基礎工事受注を機に風力発電と関わり、2年前には自ら風力発電事業に参入。今回初めて洋上風力に関わることになった。年商約130億円の1~3割が風力関連。大森啓正専務は「風力関連事業を安定的な経営基盤の一つにしたい」と話す。今回、アクセス船の運航以外に、波や水流で海底の土砂が洗い流されて風車が不安定になる「洗掘」を防ぐ工事や、陸上送電線用の管路埋設なども担当している。
大森専務は「地元の会社が洋上風力に関わっていることが実感できるよう、地元企業が協力、団結して県内産100%の仕事や物を提案していきたい」と意気盛んだ。
基礎杭やTPを、海底への据え付けまで埠頭(ふとう)に保管しておく台の製作も、大館市の東光鉄工などの県内企業が担った。基礎杭は長さ40~80メートル、TPは長さ約30メートルと、いずれも重くて巨大。地震や強風で倒れたり動いたりしたら危険なので、安定して保管するための部材は必須だ。
これらを含めた県内企業の総受注額は、陸上工事を中心に全体の10%台前半、金額では100億円を超えるとAOWの岡垣社長は話す。
秋田県は全国でも風の吹き方が風力発電に適している(風況が良い)とされる。陸上風力発電設備の導入量は全国最大級だ。洋上風力では能代市・三種町・男鹿市沖や由利本荘市沖などの一般海域4カ所で、港湾よりもずっと大規模な事業に向けた手続きが進む。合計出力は最大で180万キロワットを超す。
県は一般海域の事業費を9469億円と試算する。能代、秋田両港のケースと同様に、事業費の10%台前半を県内企業が受注するとすれば、1千億円強の規模になる。県エネルギー・資源振興課の担当者は「県内企業が設備の設置や製造に携われば産業振興につながる。洋上風力は陸上よりも大規模化が想定されるので期待している」と話す。(増田洋一)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。