注目の「抗体カクテル療法」とは 効果あるのは確かだが

酒井健司
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 テレビをつけるとオリンピックの番組が放送されています。アスリートたちの活躍には尊敬の念を覚えますが、同時に新型コロナの流行が心配です。緊急事態宣言下のはずなのに関連情報を表示するL字放送にもなっていません。第5波は(この原稿を書いている時点では)治まる気配を見せません。直接的にはともかくとして、間接的にはオリンピックが感染拡大に影響したのは確かでしょう。

 菅首相はオリンピック開催と感染制御の両立に苦労しているようです。新たな治療薬として、「抗体カクテル療法」について言及しました。日本では今年の7月に承認されたばかりの治療法です。新型コロナウイルスは、スパイクたんぱく質が細胞の表面にくっつくことで細胞内に侵入します。このスパイクたんぱく質をブロックすれば感染が抑えられます。ワクチンはこのスパイクたんぱく質に対する抗体を体につくらせることで働きます。

 抗体カクテル療法は、体に抗体をつくらせるのではなく、外部から抗体を体に入れることで効果を発揮します。2種類の抗体を同時に使うので「カクテル」です。1種類の抗体だけだとウイルスが変異したときに効果が落ちますが、スパイクたんぱく質の異なる部位にくっつく2種類の抗体を同時に使うことでウイルス変異による耐性が起きにくくなります。2カ所同時に変異が起きる確率は小さいからです。

 抗体カクテル療法の効果はいくつか海外で報告されていますが、日本で承認されたカシリビマブとイムデビマブを組み合わせた製剤は、入院や死亡のリスクを70%減らすと報じられました。該当する論文を探して読んでみました。「プレプリント」といって専門家による詳細な検証前の論文です。

 REGEN-COV Antibody Cocktail Clinical Outcomes Study in Covid-19 Outpatients(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.05.19.21257469v2別ウインドウで開きます

 論文によると、18歳以上、症状が出て7日以内、新型コロナ陽性と診断されて72時間以内、重症化リスク因子を1つ以上を有している外来患者に対して、抗体カクテル製剤を点滴投与した群と、生理食塩水を点滴投与した対照群とをランダムにわけ、28日間フォローアップして比較しました。2400mgおよび1200mgをそれぞれ対照群と比較したのですが、両者とも似た結果になりました。承認された用量である1200mg群(カシリビマブとイムデビマブそれぞれ600mg)では736人中7人(1.0%)が、対照群では748人中24人(3.2%)が入院または死亡しました。素直に考えると抗体カクテル療法は入院または死亡を約70%減少させると言えます。

 他の研究でも抗体カクテル療法が家庭内感染を防ぐことも示されており、効果があるのは確かでしょう。うまく使えば入院患者を減らすことができ医療のひっ迫をやわらげることができそうです。ただ、現時点では供給量が限られており、また投与対象者やタイミングの選択が難しく、第5波を乗り切る切り札にするには難しいでしょう。

 厚生労働省の事務通達では「本剤は、現状、安定的な供給が難しい」ため、当面の間、入院治療を要する者を投与対象者として配分を行うとされ、高齢者施設や自宅、ホテル療養中の患者さんは投与の対象になりません。しかし、ご存じの通り、医療ひっ迫のため、酸素投与を必要としない患者さんは入院が困難になりつつあります。

 酸素投与が必要なほど悪化した患者さんに抗体カクテル療法が効くかどうかはわかっていません。原理的には効きにくいと考えられます。酸素投与が必要になる前の軽症のうちに投与したいところですが、現在の医療体制ではそうした軽症の患者さんは自宅療養を基本とする方針になっています。医学的にはなるべく速く投与するのが望ましいので、外来にストックしておき診断がついた時点ですぐに投与したいところですが、現在は供給量が少なく在庫の確保はできません。うまく有効活用できるようになればいいのですが。(酒井健司)

酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。