第16回日本に学んだオナ・カルボネル、水上から伝えたスポーツの価値

木村健一
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 長男のカイ君が2日、1歳の誕生日を迎えた。「カイは海」。名付け親でアーティスティックスイミングのスペイン代表の藤木麻祐子ヘッドコーチは、オナ・カルボネル(31)にとって人生の師でもある。

 出産から1カ月余りの昨年9月、練習を再開した。「普通なら、五輪はあきらめさせられる。でも、コーチは理解してくれた」。プールの脇に小さな冷蔵庫を備えた。練習の合間、3時間ごとに母乳を出し、袋に入れて保存した。「アスリートが競技と母を両立できる世界をつくることに意義がある」

 13歳から指導を仰ぐ藤木コーチから、互いを尊重し、物事に丁寧に取り組むことを学んだ。時間を守ること、靴をそろえること、食事中は携帯電話を見ないこと……。「日本人の素晴らしさをスペイン人に教えてくれた」

 大好きになった日本を訪れるのは、東京五輪で13回目。京都に鎌倉、箱根。藤木コーチと大阪の寺に宿泊し、座禅を組んだことがある。サーファーの夫と種子島に1カ月滞在したことも。「みんな、家においでと言ってくれて」。地元の人と一緒に料理を作った。島を離れる時、みんなが港に送りに来てくれて、泣いた。飼い犬に「タネ(種)」と「シマ(島)」と名付けた。日本食のレストランも開いた。

 「人々が親切で礼儀正しくて、世界中、旅してもこんな国はない。特別な絆を感じる。前世は日本人なんじゃないか、と」

 自身の名前のオナ(Ona)は出身地のバルセロナ(Barcelona)のオナ。2013年、バルセロナであった世界選手権で、エースとしてソロに臨んだ。地元の期待は銀メダル。藤木コーチはこう言って送り出してくれた。「銀か銅か、ではない。ソロの第一歩を踏み出すことに意味がある」。穏やかな地中海に、ガウディの建築物、カタルーニャ人の情熱を表現した。メダルの色は銅だったが、誇りを持てた。その数年後、「私に何を求めているの?」と藤木コーチに尋ねた時は、こう話してくれた。

 「アスリートとしてベストを尽くして、観客の前で披露すること。真摯(しんし)な姿勢や礼儀、大切なものをチームメートに教えてほしい」

 6日夜のテクニカルルーティンは日本語の手話を使った演技に挑んだ。

 「ただのスポーツでは終わらない。みんな、大切な社会の一部。一緒になって団結することに意義があるのだと伝えたい」

 7日夜、最後のフリールーティンに挑んだ。「勢いよくチャレンジして、五輪を経験し、学ぶ。それが目標」。7位という結果にとどまらない価値を、表現したつもりだ。木村健一

連載Why I Stand(全17回)

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