「大統領への白紙委任だ」 1人だけ反対した議員の矜持

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ニューヨーク=中井大助
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 2001年9月11日に起きた同時多発テロの直後から、米国は終わりなき「対テロ戦争」に突入した。当時、米議会でただ1人、武力行使を認める決議に反対したバーバラ・リー下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)が朝日新聞の電話取材に応じ、この20年を振り返った。

 「議会は大統領に対し、武力行使の白紙委任を渡してしまった」

 リー氏は20年前の決議をこう振り返った。

 01年9月14日、米議会同時多発テロに関係した「国家、組織、人物」に対し、大統領が「必要かつ適切な有形力」を使うことを認める決議(AUMF)を採決した。

 テロ発生からまだ3日しか経っておらず、同じ日にはワシントンで追悼式も行われた。当時、初当選から3年だったリー氏も気持ちは揺れた。だが、追悼式で「行動するにあたって、我々が嘆くような悪にならぬよう、注意しなければならない」という牧師の言葉を聞き、反対を決意した。

 議場では「軍事行動によってさらなるテロを防ぐことはできない」「どんなに困難な採決でも、だれかが抑制を訴えなければならない」「少しだけでも立ち止まり、今日の我々の行動がどのような意味を持つのか、考えよう。これが制御できなくならないように」と訴え、反対に回った。採決の結果は上院で98対0、下院では420対1だった。

 それ以来、AUMFは「対テロ戦争」の大義名分となってきた。アフガニスタンだけでなく、イエメンイラク、アフリカでの武力行使、さらにはキューバのグアンタナモ米海軍基地内でのテロ容疑者らの超法規的な拘束の法的根拠とされてきた。オサマ・ビンラディン容疑者が11年に殺害され、アフガニスタンでの軍事行動が終わろうとしても、それは変わらない。

 「議会が、軍事行動を大統領の責任とすることは簡単だ。しかし、我々が行動を取っていないのも事実だ」とリー氏は語る。下院議員としてAUMFを撤回する決議案は何度も提出しているが、一度も成立に至っていない。

 米議会は02年、今度はイラクに対する軍事行動を認める決議を採決した。現在は02年の決議を根拠とした軍事行動はなく、バイデン政権も撤回に賛同を示している。だが、01年のAUMFは維持する方針だ。21年6月、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は議会の公聴会で「我々が活動を続けるのに不可欠だ」と語った。

 米国の憲法は大統領を軍の最高司令官と位置づけているが、宣戦布告の権限は議会に委ねている。戦争という国家の存亡につながる問題について、行政府と立法府の双方が関わる必要があるためだ。第2次世界大戦を最後に、米議会は一度も宣戦を布告していないが、AUMFは本来、議会として軍事行動に一定の歯止めをかける役割もある。リー氏は「議会が憲法上の役割を果たしていない」と残念がる。

 ただ、議会では過半数の支持に至らなくても、20年を経て戦争に対する米国市民の見方は大きく変わった。AUMFに反対した後、リー氏には何千通も手紙やメールが寄せられた。「死ね」「アメリカが嫌いなら出て行け」などと脅迫する内容も多く、警備がつくようになった。

 19年、リー氏は大統領選に向けた応援演説のため、サウスカロライナ州を訪れた。そこで大柄な白人男性が涙を浮かべながら、子どもと一緒に近づき、こう話したという。「謝るところを、子どもに見せたかった。私も、あなたにひどい手紙を送った一人でした。ですが、今ではなぜ決議に賛成しなかったのか、わかります」

リー議員「今もなお、決議を用いる意味ない」

 2001年9月11日の同時多発テロの3日後、米議会はテロを実行した組織などに対し、大統領が武力行使することを認める決議を採択した。20年を経ても、決議はまだ世界各地での軍事行動の根拠となっている。当時、上下院でただ1人反対した、バーバラ・リー下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)が朝日新聞の電話取材に応じ、思いを語った。主な一問一答は次の通り。

 ――武力行使を認める決議に反対した際、「制御できなくなる」という言葉を使いました。20年後に、まだ続いていることを考えましたか

 「考えていました。反対した…

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