思いきり甲子園を駆け抜けて 長島三奈さんから球児へ

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 これまで多くのゲストに甲子園球場にお招きし、熱戦をご覧いただきました。今夏の球児らへのメッセージとともに、「観戦記」の一部を再びお届けいたします(メッセージがない場合もあります)

長島三奈さん(スポーツ記者)

 「優勝した自分たちよりも去年の3年生たちが喜んでくれて……」。36年ぶりの甲子園出場を決めた小松大谷高校のキャプテン木下君が、石川大会後のリモート取材で笑顔で話してくれました。

 49代表校の皆さんはこの1年、きっと誰よりも、誰かのために戦い、泣いて、笑って、そして誰よりも強くなって甲子園にやってきたと思います。

 あなたたちの全力を、笑顔を、待ち焦がれている大勢の誰かがいます。

 2021年夏、瞳に映る景色全てを焼き付けて、思いきり甲子園を駆け抜けてください。

     ◇

(1998年8月14日 宇和島東5-4佐野日大ほか観戦)

 甲子園は朝から青空です。栃木県立小山西野球部の皆さん、お元気ですか。

 私は連日、取材に飛び回っています。暑さと睡眠不足はきついけど、食欲だけはなんとかキープ。甲子園の空気を思い切り吸い込んでいます。

 あなたたちの夏が終わって、もう1カ月ですね。

 春の県大会で優勝。甲子園初出場を信じていたのに、夏の栃木大会は3回戦で佐野日大にサヨナラ負け。延長13回、3時間半を超える戦いでした。

 あなたたちはぼうぜんと、いつまでも球場を動こうとしませんでした。もう、照明さえ消えていました。監督さんは「3年生はきょうで終わり。この空をみんなで覚えておこう」。そう言って、もう一度、全員を守備位置につかせました。

 ほかにだれもいない球場。静寂の中、あなたたちは自分の守備位置で仰向けになり、ユニホームを通して伝わる土の感触と、吸い込まれそうな真っ暗な空を記憶に焼きつけていました。あの光景を、私は忘れられません。

 あなたたちや私があこがれた通り、ここはすばらしい場所です。試合展開に呼応して観客席が揺れます。選手との一体感があふれます。でも、とても怖い場所でもあります。試合の流れが、たったひとつのプレーで180度変わってしまいます。自信満々だった投手の表情を一変させる。そんな力がここにはあります。

 あなたたちに出会ったからでしょうか。甲子園での私は、しばしば、敗者の姿に心を動かされます。試合後のインタビュー。「涙はグラウンドに置いてきました。ここからは笑顔です」。そんな言葉に、こちらが慰められます。人間は敗北によって成長することがあるのだと思いました。

 きょう、「僕たちの分まで頑張ってほしい」とあなたたちが話していた佐野日大が登場しました。最後はサヨナラ負けでしたが、八回に2点差を追いつく粘りも見せました。地方大会で敗れ去った多くの「あなたたち」が、55の代表校に自分の夢を重ね、応援していることでしょう。大丈夫。みんな、その思いにこたえる精いっぱいのプレーをしていますよ。

 あなたたちの敗北は決して無駄ではなかった。今、私はそう考えています。=抜粋

 ながしま・みな スポーツ記者。1968年、東京都生まれ。長く朝日放送系の番組「熱闘甲子園」でキャスターを務め、現在も地方大会から甲子園まで高校野球取材に情熱を注いでいる。父はプロ野球巨人の長嶋茂雄元監督。