第3回米国から「脅し」の手紙…制裁防いだメルケル氏の外交力

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ザスニッツ=野島淳
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危機の宰相 メルケル氏の遺産(3)

 ドイツ北東部の島にある港町ザスニッツの町長、フランク・クラハト(54)は昨年8月、米上院議員3人から制裁の文字を記した「脅し」の手紙を受け取って、面食らった。「わずか9千人の町が国際政治の波にのまれた」

 問題になったのは、ロシアとドイツを海底で結ぶ約1200キロの天然ガスパイプライン計画「ノルドストリーム2」(NS2)。すでにあるパイプラインと並行して建設し、欧州への輸送能力を倍増させる。

 町が株の9割を持つ港湾会社はNS2用の建設資材を保管し、建設船が港に拠点を置いた。手紙は、港湾会社が協力を続ければ「米国法で会社幹部や株主らの米国入国を禁じ、資産も凍結する」と警告していた。

写真・図版
海底での敷設を待ち、港近くの敷地に並べられた天然ガスを運ぶパイプ=2021年6月10日、ドイツ北東部ザスニッツ、野島淳撮影

 パイプラインは90%以上できている。だが、3人はNS2を「欧州と米国の安全保障に対する重大な脅威だ」とし、「未完成のままにすることで、政権と議会は一致している」とした。

 トランプ前米政権やバルト3国、ポーランドなどはNS2に反対してきた。欧州のロシア産ガスへの依存が高まることへの警戒心に加え、ロシアと敵対するウクライナの不利益になる懸念もあるからだ。ロシアがNS2の利用を口実に、ウクライナ経由の欧州向けガス供給を絞れば、ウクライナは貴重な通過料収入が激減することになる。

 だが、ドイツ首相のメルケルはNS2を「経済プロジェクト」だとして、ロシアとの外交問題とは切り離してきた。「脱原発」と「脱石炭火力」を同時に進めるドイツにとって、天然ガス再生可能エネルギーへの移行期間の重要な資源となる。

 米誌フォーブスで「世界で最も影響力ある女性」に10年連続で選ばれてきたメルケル首相が9月の総選挙に立候補せず、引退する。難民危機で失った国内の支持は回復。コロナ危機やユーロ危機、ウクライナ危機など数々の危機で、解決に向けた議論の中心にいた。「危機の宰相」は何を成し遂げ、何を次世代に託すのか。

 ザスニッツはメルケルの選挙…

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