第7回「もう悪夢みることない」 自死選ぶ退役軍人のトラウマ

有料会員記事米同時多発テロ

ワシントン=高野遼
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勝者なき戦い 米同時多発テロ20年⑦ デザイン・北谷凜
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 ふとした瞬間、イラクの戦場に舞い戻ったかのような感覚に襲われる。元米兵のジャスティン・ミラーさん(37)には、何度も忌まわしい記憶が鮮明によみがえってくる。

【連載初回】「105階から生還した男性の9・11 『叫び声、今も』」はこちら

同時多発テロからまもなく20年が経過します。全世界を震撼させた同時多発テロは世界を、そして米国をどのように変えたのか。さらに、米国が始めた対テロ戦争は世界にどのような影響を与えたのかに迫る連載です。連載最終回となる7回目では、対テロ戦争に派遣され心に傷を負った退役軍人に焦点を当てます。大切な仲間を失った喪失感や生き残った罪悪感、戦場での悲惨な経験などから、退役後に自ら命を絶つ人たちがいます。そういった退役軍人を救おうとする動きや家族の思いを伝えます。

 あの日、砂漠地帯で起きた爆発現場に駆けつけた。幼い姉弟が、目の前で頭から血を流して倒れていた。 父親らしき男性が駆け寄ると、男の子を抱え上げるのが見えた。

 助けようと声を上げたが、上官に制止された。

 「我々の方に近づかせるな。近づいたら撃ち殺せ」。自爆攻撃を恐れての命令だった。

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自殺寸前に追い込まれた時期を経て、ミラーさん(右)は退役軍人を支える団体を立ち上げている。左は共同創設者のクリス・メルカドさん=ミラーさん提供

 ミラーさんは「止まれ!」と叫んだが、男性は止まってくれない。引き金を引いた。男性はその場に倒れ、「アラーよ」と神に助けを求めた。腕の中の男の子はすでに息絶えているようだった――。

 ミラーさんは2004年11月、米陸軍の歩兵としてイラクに派遣され、中部ファルージャの近郊で任務に当たっていた。

 ミラーさんは、2人の子どもたちに見覚えがあった。1カ月前、パトロールを終えて歩いていると、遊びたそうに腕を引っ張ってきたのがその姉弟だった。

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イラク中部ファルージャで2004年、負傷した仲間をヘリコプターへ運ぶ米海兵隊員=ロイター

 「今日はダメだ」と振り払ってもついてくるので、仕方なく通訳を呼んだ。すると、姉弟は自分たちに「IED(簡易爆発装置)が埋まっている」と伝えようとしてくれていた。

 すぐ先、道の真ん中に爆弾が仕掛けられていた。間一髪だった。

ミラーさんは、その後どうなったのでしょうか。記事後半では、対テロ戦争を経て、つらい体験をぬぐい去ることができずに心に傷を負った退役軍人へのケアという問題を当事者への取材を通じて伝えます。さらに、イラク戦争に派兵後に心の傷を抱えて苦しんだ末、自殺を選んだ男性の家族にも取材して、その思いも伝えます。

 ミラーさんはいまもあの日の…

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