首相解任、議会停止…チュニジアで何が 駐日大使に聞く

聞き手・荒ちひろ
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 北アフリカチュニジアで7月末、サイード大統領が首相の解任や国会の機能停止などを次々と発表した。10年前に中東・北アフリカで相次いだ民主化運動アラブの春」の「唯一の成功例」と言われる国で、何が起きているのか。モハメッド・エルーミ駐日大使が朝日新聞のインタビューに応じ、大統領の立場をもとに説明した。

 ――サイード大統領が7月25日、メシーシ首相の解任や国会の機能停止などを発表しました。大統領は「憲法に定められた緊急事態条項の適用」と説明していますが、国内で何が起きているのですか。

 民主化を果たしたチュニジアですが、国内では社会、経済的な停滞が続き、特に若者の高失業率が問題となっています。その中で、さらにコロナ禍が追い打ちをかけました。ワクチン接種の遅れや、医療体制の欠陥など失策が続き、多くの国民が医療用酸素の不足に苦しんでいます。

 感染拡大を抑制できないメシーシ内閣に、国民の不満が高まり、各地でデモも起きていました。メシーシ首相も国民の不満には気づいており、自身が解任される数日前に、保健相を解任したばかりでした。

 今回の大統領の措置は、こうした国民の声を受けてのものです。

 ――具体的にはどのような権限に基づいているのでしょうか。

 2014年に制定された現行の憲法は、80条で「国家の危機に際しては、大統領が、首相や国会議長と相談の上、必要な措置をとることができる」と定めています。

 サイード大統領は元々憲法学者です。すべての行動は憲法にのっとったものであり、今回の一連の措置もこの緊急事態条項に基づいたものです。彼自身、緊急事態における措置であることを演説や会談のたびに強調しています。以前の独裁体制に戻るようなものでは決してありません。

 ――一方で、国会議員たちもまた、民主的に選ばれた国民の代表です。7月末の大統領の発表直後には、連立与党であるイスラム政党ナハダの党首でもあるガンヌーシ国会議長が「クーデターだ」と強い言葉で非難しました。

 直近の国会は、政党間の争いに終始し、機能不全を起こしていました。また、19年に実施された前回の国会選挙で外国資金を違法に受け取っていた疑いのある政党もあり、司法当局による調査が進んでいます。

 大統領の行動の背景には、国民の強い要望があります。緊急事態の措置以降も、市民団体や経済界、法曹や労働組合など市民社会のメンバーらと会合を重ねています。

 なお、ガンヌーシ氏はその後、大統領との協議を受け入れるとしています。

 ――国会の凍結など、あくまでも「一時的な措置」とのことですが、今後の見通しは?

 8月末をめどに、大統領が新しい首相を任命し、国会を再開させ、課題に取り組んでいく。喫緊はコロナ対策でしょう。大統領と新しい首相による内閣が力を合わせ、難しい問題に立ち向かっていかなくてはなりません。(聞き手・荒ちひろ)

チュニジア

 2010年末に始まった「ジャスミン革命」で、23年続いたベンアリ独裁政権が11年1月に崩壊。中東・北アフリカで広がった民主化運動アラブの春」のさきがけとなった。

 労働総連盟など4団体が与野党を仲介して民主化を軌道に乗せ、14年成立の新憲法のもとで大統領選と議会選が2度ずつ行われた。4団体は「チュニジア国民対話カルテット」として15年にノーベル平和賞を受賞した。

 憲法学者だったサイード氏は無党派層に支えられて19年に当選。一方、同年の議会選で第1党となった穏健イスラム政党ナハダは、メシーシ氏の首相就任を支持した。両氏の間で政治の主導権をめぐる争いがあったとされる。