コロナ下でこそ…でも感染怖い パラ開催、問われる意義

松本龍三郎
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 新型コロナウイルスが猛威を振るう東京でのパラリンピック開催に、アスリートの考え方もそれぞれだ。置かれた環境や障害によって、様々な思いで本番へ向かう。

 陸上男子400メートル、1500メートル(車いすT52)の世界記録保持者で、2種目制覇を目指す佐藤友祈(31)は、開催への「逆風」を感じてきた。これまで応援してくれていたのにコロナ禍を機に反対に回る人や、SNSで反対意見ばかりを並べる人を目にした。

 コロナ禍に苦しむ社会全体が「できない方向にしか目を向けなくなってしまっている」と言う。そんな時だからこそ、パラリンピックには訴えかけるものがあると信じている。

 佐藤は病気により21歳で歩けなくなり、左手にまひが残った。車いす生活を余儀なくされ、ふさぎ込む日々を送った。救ってくれたのが、2012年ロンドン・パラリンピックで奮闘するアスリートの姿だった。

 「選手は様々な障害がありながらも潜在能力をフルに生かし、どうやったらできるかに着眼点を置いている。失われたものではなく、残された機能を最大限引き出し、最高のパフォーマンスを発揮する。そこを示せるのがパラリンピックだと思う」

 市中で感染拡大が進む一方、大会の実現に向けては「五輪もパラも選手や関係者全員が徹底した感染対策を施してきた」。自身も練習以外の外出は極力控え、大切な息抜きの映画鑑賞を我慢した。「対策は万全におこなった」と自負する。

 「コロナ禍の中でパラリンピックが皆さんの目にとまれば、日常生活でもできないという方向からシフトし、どうやったらできるかという考え方にチェンジするきっかけになる」

 自分の走りにもメッセージを込める。「困難な状況下でも諦めず、しっかり結果を残す姿を見せるのが、選手たちの役目。それが、支えてくれている人たち、ボランティアスタッフの人たち、全ての人たちに対する恩返しだと思う」

 同じ400メートル、1500メートルに出場予定で、2年前の世界選手権では2冠の佐藤と表彰台に上がった伊藤智也(57)の考えは対照的だ。「手放しで喜ばれる大会ではない」と言い切る。患者や遺族、医療従事者、飲食業者、旅行業者……。挙げればきりがない人々の「大きな犠牲が払われている」と思うからだ。

 自己免疫疾患多発性硬化症を抱える伊藤は昨年11月に約4年ぶりの再発を経験。障害の程度はさらに進んでしまった。発熱で症状悪化の恐れがあり、コロナへの警戒心は人一倍強い。

 「僕の病気は主治医でなければ診られない。感染のリスクが多いところには行けない」。コロナが蔓延(まんえん)する海外へ遠征ができず、一時は本番に必要な資格が得られない可能性もあった。「人命の犠牲の上に行われるなら開催すべきではない」と考えたこともある。

 それでも「競技ができるという幸運、喜びを前面に出していかないと、逆に世の中の多くの方々に失礼ではないか」と思い直し、大会参加を決意した。

 感染の恐怖が消えたわけではない。「大会に出る意義は何か。多くの選手が半信半疑の中でやっていくのではないか」。整理がつかない気持ちを抱えながら、19日に選手村へ入る。(松本龍三郎)