消えた「宇宙の塾センター」 中国受験業界を変えた通達

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北京=林望
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 「宇宙の学習塾センター」。そう呼ばれていた北京の学習塾激戦区からこの夏、業者が次々と姿を消した。過熱する「お受験」文化を受けて共産党政権が出した一通の通達が業界を一変させ、受験生や保護者を巻きこんで大きな波紋を広げている。

 北京大学や人民大学など名門大学の付属中学が集まる北京市海淀区黄荘は、半径500メートルの範囲に100を超える学習塾がひしめく、業界の最激戦区だった。学習塾がこれだけ集中する場所はほかにはないだろうという意味で、「宇宙の学習塾センター」との呼び名が生まれたほどだ。

 しかし、この夏、異変が起きた。軒を並べていた学習塾が相次いで撤退したのだ。

 8月、「新東方」「高思」などの大手が集まることで知られた高層ビルを訪ねると、頑丈なカギがかかったガラスのドア越しに、壁や床が取り払われたがらんどうの教室が見えた。ほかの塾もいずれも空き室になるか、新しいテナントが入るかしていた。

 ビル1階の案内所にいた係員は「テナントの8割は教育関係だったが、みんな出て行った。このビルは受験産業のシンボルみたいになっていたから、オーナー側が退去するよう頼んだと聞いている」と話した。

宿題終わらなければ寝かせろ」 生徒負担軽減の通達

 こうした動きが、社会の注目を集めたのは7月末。中国共産党と中国政府が連名で出した通達がきっかけだった。

 通達名は「宿題と学習塾が義務教育段階の児童・生徒にもたらす負担のさらなる軽減について」。習近平(シーチンピン)国家主席が率いる政権が、ヒートアップする受験戦争を問題視し、本気で介入し始めたことが鮮明になった。

 「双減(二つの軽減)」として保護者や教育関係者に知れ渡ったこの通達は、学校の宿題が増えすぎているとして、小学2年以下は宿題をなくし、小学6年以下は1時間以内、中学生は1時間半以内に終わる量にするよう具体的に定めた。

 「頑張っても宿題が終わらない子は無理させずに寝かせよ」などと細かく指示する条文からは、勉強に追われる子どもの過酷な現状もにじんだ。

 宿題のほかにやり玉に挙げられたのが、学習塾だ。通達は今後、小中学生対象の学習塾の新規開設を認めないとし、上場による資金調達も禁止。既存の塾はすべて非営利団体として改めて登記させ、授業料も政府が監督するなどとした。

 経済発展に伴い高学歴化が進む中国では、受験産業が拡大を続けてきた。中国メディアなどによると、業界全体の年間売上額は1千億ドルを超え、2018年の調査で学習塾は20万校、生徒は1億人に達した。「教育にどれだけお金をかけられるかか」という同年のアンケートで48%の保護者が「収入の4割」と回答するなど、教育に投資を惜しまないという風潮を反映し、塾の授業料はばらつきがありながら高騰していた。

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