横浜市庁舎2階の一角に先月、カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致をPRする企画展示が現れた。ミニチュアの建物や壁面パネルは、市長選告示前日の今月7日まで、12日間にわたって展示された。
市の事業者公募に応じ、IRの計画案を提出した2グループの構想を紹介した。きらびやかな建物が立つ山下ふ頭の模型やイメージ図が飾られ、来庁者が興味深そうに見入っていた。
近くの画面では市がつくったビデオも流され、IRが必要な理由を挙げた。
▽横浜市は訪日外国人の宿泊者数増加の伸び率が低い
▽横浜市は高齢者が増える一方、働き盛りの人たちが減るため、税収減や社会保障費増、経済活力の低下に見舞われる
そんな課題を克服する切り札がIRというわけだ。
22日投開票の横浜市長選では何が問われているのでしょうか。政策課題の論点と各候補の主張を紹介します。今回のテーマは「IR誘致」です。
市が事業者に求めるIRは、大規模な国際会議場や展示場、五つ星ホテルを含む3千室以上の宿泊施設群、劇場や美術館、ショッピングモールなどの集客施設などで構成。IR内につくるカジノの収益を原動力にこれらを一体的に建設・運営する。
IRのカジノでは、刑法で禁じられた賭博が例外的に認められる。国は来年5月以降、国内3カ所を上限に選び、2020年代後半の開業を見込む。市は「世界最高水準のIR」の実現を掲げ、事業者選定を進めている。
市は新型コロナウイルス禍前の試算として、IRの建設時に1兆1千億~1兆6千億円、運営時に年7400億~9700億円の経済波及効果があり、市の増収効果は年860億~1千億円と見込んだ。
だが、事業者の投資規模や、その裏付けとなるカジノ収益の見通しは示していない。
同様にコロナ禍前の試算だが、大阪府・市は19年12月に基本構想で、IRの投資規模が9300億円、年間売り上げが4800億円と示している。うちカジノ収益が約8割の3800億円を占め、外国人が2200億円、日本人は1600億円と内訳も示した。
日本人は入場料や入場回数の規制があるが、海外のIR関係者は「地元住民はコンスタントにカジノを訪れ、カネを落とす。収益を下支えしてくれる重要な存在だ」と言う。
IR誘致をめぐるこれまでの議論では「市財政がカジノ収入に依存することにならないか」「地元住民が利用し、ギャンブル依存症が増えないか」「市民の財産がカジノに吸い上げられないか」といった懸念があった。議論の土台となる情報が不可欠だが、市は「区域整備計画までに明らかにする」と繰り返し、議論があまり深まらなかった。
コロナ禍によるIR事業者の経営への打撃や、オンラインカジノの普及などの影響もあまり考慮されていない。みなとみらい21地区にもIRと似た施設群がすでにあり、「共倒れになるのでは」との指摘も聞かれる。市は事業期間を35年と設定したが、国が将来、競争相手のIRの数を増やさないという保証はない。
市幹部にも「IRにどれだけ市への増収効果があるかはギャンブルだ」との声がある。
市は有識者でつくる選定委員会による審査を踏まえ、今夏にも事業予定者を決める予定。その後、共同で区域整備計画を秋から冬にかけてつくり、市議会の議決を経て、国に認定申請する。申請締め切りは来年4月末。市民や市議会が計画の詳細を知っても、議論や検証を十分できるほどの時間はない。(武井宏之)
IR誘致への各候補者の主な訴え
太田正孝氏 反対。国内設置はいけない
田中康夫氏 反対。地元経済に寄与せず
小此木八郎氏 横浜誘致を完全にとりやめ
坪倉良和氏 反対。食のテーマパークに
福田峰之氏 賛成。財源策に必要不可欠
山中竹春氏 断固阻止。IR自体に反対
林 文子氏 賛成。観光MICE都市に
松沢成文氏 反対。カジノ禁止条例作る
(届け出順。アンケートの回答などから)
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