クロ現問題に冷淡な世論 「企業経営の論理」専制の果て

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山腰修三のメディア私評

 デルタ株の感染拡大による新型コロナの「第5波」が猛威を振るう中、テレビは五輪の祝祭ムードで埋め尽くされた。中でも気になったのは、NHKが「ニュースウオッチ9」の放送時間を大幅に短縮したことだ。政府が患者の入院基準の方針転換を突如として打ち出し、社会的な不安が大きくなる中でも、五輪の中継を優先したためである。NHKの掲げる「公共性」とは、いったい何を指すのであろうか。

 この7月、NHKをめぐって大きな事態が展開していた。NHKの経営委員が自局の報道のあり方を批判したとされる会議の議事録が、全面公開されたのである。

 やまこし・しゅうぞう 1978年生まれ。慶応義塾大学教授(ジャーナリズム論、政治社会学)。主著に「コミュニケーションの政治社会学」。

 この問題は、かんぽ生命保険の不正販売を調査報道によって明らかにした「クローズアップ現代+」に対し、日本郵政グループがNHKに抗議したことに起因する。抗議を受け、経営委員会は「ガバナンス強化」という論理によって当時のNHK会長を厳重注意した。この対応は報道現場の萎縮につながるだけでなく、経営委員による番組への干渉を禁じた放送法に抵触する可能性もある。それを検証する重要な手がかりのひとつが議事録だったが、NHKは全面公開を拒み続けていた。

 2年以上たって議事録が全面公開されたのは、朝日新聞や毎日新聞などによる継続的な報道によるところが大きい。両紙は社説でNHKの対応を繰り返し批判し続けてきた。それはジャーナリズムの危機感の表れでもある。

 NHKは国営放送とも民放とも異なる公共放送である。国家の圧力や市場(民間企業)の論理から独立し、「公共の利益」のために報道を行うというのが、NHKの組織原理だ。調査報道のようなジャーナリズム活動は「公共性」の中核に位置づけられる。それが、民間企業出身の経営委員が掲げる「企業経営の論理」によって不正追及の取材手法や報道の理念が否定される、という事態に至っている。

 この問題への世の中の関心はあまり高くない。NHKのあり方、あるいはジャーナリズムについての関心の低さもあるかもしれない。しかし、より根深い原因は「企業経営の論理」を当然かつ最良のものと見なす風潮にあるのではないか。そして「企業経営の論理」が社会の支配的な価値になってしまっていることこそが、政治から五輪に至るまで、今日の社会のさまざまな問題の基盤を形作っている。

 この風潮は1980年代ごろ…

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