「生活困窮者を間接的に死へ…」 差別発言に感じた恐怖

編集委員・清川卓史
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 「メンタリスト」DaiGo氏がYouTubeチャンネルでホームレスや生活保護利用者に対する差別発言をした問題で、生活困窮者の支援にあたる4団体が緊急声明を出した。そのひとつである「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんは、DaiGo氏の発言に恐怖を感じた、という。強い危機感を抱く理由を稲葉さんに聞いた。

 ――ユーチューバーとして活動するDaiGo氏は8月7日公開の動画で、「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい」「ホームレスの命はどうでもいい」「いないほうがよくない?」などの差別発言を繰り返しました。支援団体連名で緊急声明を出した理由を教えてください。

 「私たちはコロナ禍で仕事や住まいを失って困窮した人の駆けつけ支援に取り組んでいます。新聞やテレビを見ない若い人がどうやって私たちのメール相談窓口にたどりつくかというと、ほとんどがYouTubeやTwitterの情報です。DaiGo氏はチャンネル登録者数が250万人に迫る『インフルエンサー』です。彼の発言によって差別や偏見をあおる情報が広がれば、若い世代への悪影響ははかりしれません」

 「DaiGo氏は『人間は、群れ全体の利益にそぐわない人間を処刑して生きているんですよ。犯罪者を殺すのだって同じですよ』などと述べ、社会からの排除、抹殺まで示唆しました。人の生きる権利を否定するような発言に対しては、社会全体でそれは許されないというメッセージを突きつける必要があります。各団体と話し合い、声明を出しました」

――稲葉さんは、1990年代から路上生活者の支援を続け、生活保護申請同行などの支援にも取り組んでいます。支援の現場からみて、今回の発言について看過できないのはどのような点でしょうか。

 「まず、ホームレス状態の人への差別を扇動していることです。もともと路上生活者への社会の偏見は根深いものがあります。90年代に初めて『炊き出し』にかかわったころ、通行人に『なんであんなやつらを支援するんだ』と言われました。バブル崩壊後にホームレスが急増すると、若者による襲撃事件が多発しました。私たちが定期的に実施している都内の『夜回り』でも通行人などに暴力をふるわれたり、若者に花火をうち込まれたり、といったホームレスの方の声を何度も聞いています。2014年に都内の支援団体が合同で実施した調査では、都内の路上生活者の4割が襲撃された経験があると答えています」

 「最近でも、昨年3月には岐阜市で路上生活をしていた80代の男性が若者に襲われて命を落とし、同年11月には東京都渋谷区でバス停でホームレス状態だった60代女性が近所の男性に暴行されて亡くなっています。そういう状況下での『ホームレスの命はどうでもいい』という発言は、直接的にヘイトクライムを誘発し、さらなる犠牲者を生みかねないのです。DaiGo氏はホームレス状態の方について『じゃまだしさ、プラスになんないしさ、くさいしさ、治安悪くなるしさ』などと発言しています。過去に襲撃事件を引き起こした若者たちの多くが、同様の発言をしていたことを忘れてはいけません」

――声明では、生活保護に対する忌避感をより強めると警鐘をならしています。

 「コロナ禍で困窮して所持金数十円で路上生活に追い込まれるなど、極限の貧困状態になっても『生活保護だけは』『ほかの制度はないか』と制度の利用を拒むケースが後を絶ちません。利用するのが恥ずかしい、後ろ指を指されるというマイナスのイメージが社会に蔓延(まんえん)しています。こうしたスティグマは、2012年に一部の政治家が主導した生活保護バッシングでさらに強化されました。ただ昨年12月には厚生労働省がウェブサイトで『生活保護の申請は国民の権利です』と掲げるなど、変化の兆しもでていました」

 「DaiGo氏の『生活保護の人たちに食わせる金があるなら猫を救って』などの発言は、利用者への偏見を助長するものです。生活保護制度を権利ではなく施しととらえている。その結果として、命をつなぐための『最後の安全網』である制度から確実に困窮者を遠ざけます。これは間接的に困窮者を死に追いやる発言と言うほかなく、強い危機感、恐怖を感じます」

 ――DaiGo氏は13日夜の配信で一連の発言について謝罪しました。稲葉さんたちは14日に緊急声明で『謝罪は単なるポーズの域を出ていない』と批判、同じ日にDaiGo氏は「(前回は)真の意味で謝罪になっていなかった」として再び動画で謝罪しました。スーツ姿で登場し、『もし自分の母親が生活保護を受けていたらどう感じるか考えた』などと語り、自らの発言を『ヘイトスピーチ』だったと認め、何度も頭を下げました。

 「謝罪はしましたが、がんばることができなくても、がんばっているように見えなくても、すべての人に生きる権利があるという大前提の理解はなおできていないのではないか、という疑念が消えません。それに、本当に深く内省して謝罪するのであれば、動画配信だけではなく、記者会見を開いたり、受け手が時間をかけて読めるような文章のかたちにまとめて表明したりするべきではないかと思っています。(2回目の謝罪時の)『昨日の謝罪を撤回致します』というタイトルのつけ方にも、私はひっかかりました。いわゆる『釣りタイトル』で、開き直るのかと思わせて、実際の内容は違う。すべては動画の再生回数のためではないかと感じてしまいます」

 「インフルエンサーの芸能人だけでなく、国会議員や大学教員など、社会に大きな影響力を持つ人が人の命の価値を否定するような発言をした場合は『一発アウト』、その職を続けるべきではないと私は考えています。厳しすぎるという意見もあると思います。しかし、そういう対応を社会が積み重ねていかない限り、また同じような差別や扇動が繰り返され、いつか暴力が誘発され、社会が壊される事態になってしまうと懸念しています。ただ、本当に重要なのは、DaiGo氏が今後どうするかということよりも、こうした問題に社会がどう向き合うか、だと思います」

 ――巨大な影響力を持つインフルエンサーによる差別偏見の扇動は、確かに今後も懸念されます。社会はどう向き合っていくべきでしょうか。

 「DaiGo氏の発言は一線を越えたものでしたが、人の命に優劣があるという『優生思想』や、貧困についての『自己責任論』は、残念ながら私たちの社会に蔓延(まんえん)しています。今回はホームレスの人や生活保護利用者がターゲットになりましたが、障害のある人や外国人がターゲットになることもある。今回の問題を、こうした自分たちのなかにある差別意識を克服し、人権意識を更新するきっかけにできればと思います」

 「生活保護などの社会保障を権利ではなく施しととらえる考えも、社会に根深くある考えです。施しなので、がんばっている人は救うべきだが、そうでない人は切り捨てていいと。生活保護は、貧困に陥った理由を問わない『無差別平等』の原理を掲げています。この理念に私たちの社会はまだ追いついていない。どんな人であっても、健康で文化的な最低限度の生活を送る権利があります。まず貧困に対するまなざしを変えることから出発しないと、同じような発言が繰り返されてしまいます」

 ――インフルエンサーたちに発信の場を提供するプラットフォーム事業者のあり方についてはどのようにお考えでしょうか

 「新聞やテレビの報道であれば社内で一定のチェックが入りますが、今回のDaiGo氏のような差別発言について現時点ではYouTubeは野放し状態です。運営する事業者の責任が問われるべきだし、なんらかの歯止めが必要ではないかと思います」

(※インタビューは8月15日に実施しました)

生活困窮者支援団体による緊急声明(全文)

 生活困窮者支援団体が、14日に公表した緊急声明の全文は以下の通り。

【メンタリストDaiGo氏のYouTubeにおけるヘイト発言を受けた緊急声明】

生活保護問題対策全国会議/一般社団法人つくろい東京ファンド/新型コロナ災害緊急アクション/一般社団法人反貧困ネットワーク

1 DaiGo氏の発言内容

 DaiGo氏は、本年8月7日に公開されたYouTubeの動画の中で、「僕は生活保護の人たちに、なんだろう、お金を払うために税金を納めてるんじゃないからね。生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしいと僕は思うんで。生活保護の人が生きてても僕は別に得しないけどさ、猫は生きてれば得なんで」、「自分にとって必要のない命は、僕にとって軽いんで。だからホームレスの命はどうでもいい。」と述べました。DaiGo氏が猫を大切に思う気持ちは尊重されるべきとしても、猫と生活保護利用者やホームレスの人の命を比べて、後者について「どうでもいい」と貶めることは、明らかに一人一人のかけがえのない命を冒瀆するものです。

 さらに、DaiGo氏は、「どちらかというといない方がよくない、ホームレスって?」「いない方がよくない?」と繰り返し視聴者に問いかけ、「正直。邪魔だしさ、プラスになんないしさ、臭いしさ、ねぇ。治安悪くなるしさ、いない方がいいじゃん。」とホームレスの人に対する差別と偏見に満ちた認識を示したうえで、「もともと人間はね、自分たちの群れにそぐわない、社会にそぐわない、群れ全体の利益にそぐわない人間を処刑して生きてきてるんですよ。犯罪者を殺すのだって同じですよ。犯罪者が社会の中にいるのは問題だしみんなに害があるでしょ、だから殺すんですよ。同じですよ」と述べて、社会からの排除や抹殺まで示唆しました。

2 DaiGo氏の発言の問題点

 ホームレスの人や生活保護利用者の命は要らないとする、DaiGo氏の一連の発言は、人の命に優劣をつけ、価値のない命は抹殺してもかまわない、という「優生思想」そのものであり、断じて容認できるものではありません。これらの発言は、差別を煽動する明確な意図に基づいて行われたものであり、現に、路上生活者に対する差別に基づいた襲撃事件が後を絶たない中、さらなるヘイトクライムを誘発する危険のある、極めて悪質な発言と言わざるを得ません。

また、貧困や生活困窮に陥ることについては、社会的な要因があり、これを社会全体で支え、生存権を保障するための制度として生活保護制度があるということについて、根本的な理解を欠いた発言であると言えます。

 今、コロナ禍が長期化する中、生活に困窮する人々が増えているにもかかわらず、被保護実人員は、2020年2月の206.4万人から2021年4月の204.3万人へとむしろ減っており、生活保護の利用に結び付いていません。私たちの相談活動の中でも、「生活保護だけは死んでも受けたくない」という強い忌避感を示す人が極めて多いのです。これは、2012年春、片山さつき氏らの一部自民党国会議員らが主導した“生活保護バッシング”によって、生活保護を忌避する“国民感情”が深く広く浸透していることによると考えられます。

著名なテレビタレントであり、YouTubeチャンネル登録者数が250万人にも及ぶ「インフルエンサー」であるDaiGo氏による今般の発言は、ホームレス状態の人に対する実態をみない偏見をさらに助長し、排除を誘導するものであり、さらに、生活保護に対する市民の忌避感をより一層強め、命をつなぐ制度から人々を遠ざけ、生活困窮者を間接的に死に追いやる効果を持つものです。

 なお、批判を受けて、DaiGo氏は8月13日夜、今回の発言を「謝罪」する動画を配信しました。長年ホームレス支援をしているNPO抱樸の奥田知志氏と連絡をとり、近々、現地に赴いて支援者や当事者から話を聞いて学びたいとしつつも、しばしば笑顔を見せながら、「ホームレスの人とか生活保護を受けている人は働きたくても働けない人がいて、今は働けないけど、これから頑張って働くために、一生懸命、社会復帰を目指して生活保護受けながら頑張っている人、支援する人がいる。僕が猫を保護しているのとまったく同じ感覚で、助けたいと思っている人、そこから抜け出したいと思っている人に対して、さすがにあの言い方はちょっとよくなかった。差別的であるし、ちょっとこれは反省だなということで、今日はそれを謝罪させていただきます。大変申し訳ございませんでした」と謝罪の言葉を述べたのです。

しかし、ここで示された考え方は、他者を評価する基準を「頑張っている」(と自分から見える)かどうかに変えただけであり、他者の生きる権利について自分が判定できると考える傲岸さは変わりません。しかも、貧困や生活困難を社会全体で支え、生存権を保障するために、権利としての生活保護制度があることについて、根本的な理解を欠いていることに変わりがありません。少なくとも現時点においては、DaiGo氏が、自らの発言の問題点を真に自覚していると評価することはできず、その反省と謝罪は単なるポーズの域を出ていないと言わざるを得ません。

3 私たちの提案

 今回の発言では生活保護利用者とホームレスの人たちがターゲットにされていますが、生産性や自らの好みにより、他者の命に優劣をつける発言を野放しにしていると、さまざまな生活上の困難を抱えている他の人たちも、いつ攻撃の的にされ、生存を否定されてもおかしくありません。すべての人の命は等しく尊重されるべきであるという近代社会の前提を棄損する発言を私たちは絶対に許してはなりません。

DaiGo氏の発言に対しては、幅広く多様な方々が批判の声を挙げています。厚生労働省も、8月13日、「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」と生活保護の利用を呼び掛けるツイートをしました。これは、2012年春の“生活保護バッシング”の際にはなかった動きであり、市民の側にも、行政の側にも、「生存権」の重みを踏まえた対応が見られることに、希望が見えると評価できます。

 私たちは、私たちの社会を守るため、DaiGo氏の一連の差別扇動を許さないという姿勢を、より明確に社会全体で示す必要があると考え、以下の5点を求めます。

1 DaiGo氏は、形だけの反省・謝罪にとどまらず、この動画がヘイトスピーチに該当する内容であることについて真の理解に至ったうえで、改めて発言を真摯に反省・撤回し、生活保護利用者、ホームレス状態にある人々に謝罪すること。また、「処刑」や「殺す」という言葉を用い、特定の人たちを社会から排除・抹殺することを正当化することは、ヘイトクライムやジェノサイドを誘発しかねない反社会的行為であることを認識し、この点についても明確に発言を撤回し、謝罪すること。

2 「最後は生活保護がある」と述べた菅首相は、DaiGo氏の発言が許されないものであることを明言したうえで、生活保護の申請が国民の権利であることを率先して市民に呼び掛けること。

3.厚生労働省も、公式サイトにおける「新型コロナウイルス感染症の影響により生活にお困りの皆さまへ」のページにおいて、生活保護制度の案内を大きく取り上げる等、制度利用を促す発信に力を入れること。福祉事務所が追い返しなどしないように、周知徹底をはかること。

4.マスメディアは、DaiGo氏の起用を差し控え、その発言の問題点を報道し、このような発言を許さない姿勢を明確にすること。

5.私たち市民は、今回のDaiGo氏の発言を含め、今後ともこのような発言は許されないことを共に確認し、これを許さない姿勢を示し続けること。

 (編集委員・清川卓史