多メディア化が変える「共通体験」 五輪とテレビの未来

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聞き手・弓長理佳 聞き手・田島知樹
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 NHK、民放の地上波衛星波合わせて約1500時間に及ぶ放送時間が割かれた東京オリンピック(五輪)。コロナ禍でテレビ観戦が中心となり、日本勢の活躍が華々しく報じられる一方、ニュースの時間は削られ、NHKでは8月6日に例年放送されていた原爆の特集番組がなかった。日本では開会式などが高視聴率を記録した一方で、巨額の放映権料で五輪に大きな影響力を持つとされる米国のNBCでは視聴者数が減った。五輪とテレビの関係はどうなっていくのか、テレビに求められる役割はなんなのか。識者に聞いた。

平和や戦争考える機会にもできたはず 米倉律さん

 自身もNHKでディレクターなどを務め、映像ジャーナリズムや放送史に詳しい日本大学の米倉律教授(52)に話を聞いた。

 ――今回の五輪放送をどう見ますか

 体感として、例年と比べて特別長いとは感じませんでした。ただ、自国開催だからか、最近の五輪に輪をかけて、日本勢中心の放送なのが目につきました。民放はより日本勢に焦点を当てていて、非常に内向きのジャーナリズムという印象が強かった。

 五輪という、外向きの視点を確保するきっかけとなるようなイベントだったのに、そういうところがなかなか展開しませんでした。

 ――NHKは43年ぶりに8月6日に原爆関連の特集番組を放送しませんでした

 8月6日は日本の戦争体験を考える上では非常に重要な日付。この日に原爆や戦争に関連したドキュメンタリーをやることには大きな意義があります。

 それが途切れてしまったことはびっくりしました。過去の五輪でもそういうことはなく、NHKスペシャル1本は50分ほどなので、それも放送できないのかと。

 五輪自体が、平和の発展にスポーツが貢献するという精神のもとに行われています。自国開催の五輪と重なるのであれば、五輪を切り口として今の平和を考えるとか、さかのぼって戦争を考えるとか、テーマや手法を考えていくきっかけや可能性があったんじゃないかという気がします。

 ――五輪に時間を割いたために他のニュースがおろそかになったのでは、という批判もあります

 コロナ禍という非常時に開催され、開催期間中に急激に感染拡大していった。当初の放送計画はあるでしょうが、そこはもっと柔軟に編成を考える余地があったのではないでしょうか。

 ニュースの冒頭でいつも五輪をやっていたわけではなく、コロナもある程度時間を使ってやっていましたが、NHK、民放ともに、8月6日も含めて伝えられるべき情報が十分伝えられなかったことは否めません。

 ――五輪を見たくない、もっと他のことをやってほしいという人もいました

 ビデオリサーチが調査を開始した1962年から現在までの高視聴率50番組の大半が60~70年代に集中しています。80年代以降になんで視聴率が取れなくなったかというと、衛星放送やケーブルテレビの発達による多チャンネル化があります。その後インターネットも登場して、情報の中に占めるテレビの大きさがどんどん小さくなっていった。

 しかしその中に、90年代以降もいくつかの番組がランクインしています。それはサッカーワールドカップなどの巨大スポーツイベントの中継です。

 テレビの強みは、「今ここ」という、今この場でみんなで見る、という共有体験を得られること。だからスポーツ中継は多メディア化の中でも視聴率が取れるのです。

 ただ、今回の五輪の視聴率が良かったといっても、歴史的に見ると大して高くなく、コロナ下で自宅観戦を推奨される中での記録なので、テレビが得意としてきた国家的スポーツイベントですら視聴率が取れなくなってきています。

「公共の広場」を担う役割

 ――多チャンネル化、多メディア化の影響ですか

 そうですね。あとはスポーツがどれだけ人々に求心力を持つか、という点があります。

 日本で象徴的なのは、プロ野球・巨人のナイター中継がすごく減ったこと。視聴率が取れなくなり、2006年ごろから中継が減り始めた。

記事の後半では、早稲田大学スポーツ科学学術院のリー・トンプソン教授に米NBCの放送や、多メディア化による五輪の見方の変化について聞きます。

 それは巨人の問題ではなく…

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