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第11回1分も見なかった五輪 かけ声だけの政治に初めての怒り

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聞き手・熊井洋美
写真・図版
語る東京五輪⑪
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 緊急事態宣言が出ている中で開かれた東京五輪は、新型コロナウイルス感染症の患者を診ている臨床医の目に、どう映ったのでしょうか。医師で作家の夏川草介さん(42)に聞きました。

 ――開催するか、観客を入れるか、直前まで決まらなかった東京五輪をどう見ましたか。

 開会式の3日ほど前まで、「いつ中止が発表されるのかな」と思っていました。緊急事態宣言が出る中で、まさかやらないだろうと。

 開催する気持ちがまったくわからないわけではないんです。大きな経済効果があって、その結果、生活が守られる人がいることは理解しているので。

 でも、一番の驚きは、菅義偉首相小池百合子東京都知事らが、五輪開催と新型コロナウイルスの感染拡大の関連を否定したことです。

 五輪を開くべきでなかったかどうか、経済の素人である私にはわかりません。しかし、「感染拡大と関係がない」という認識は相当見当外れだという印象を持ちます。

「感染拡大と関係がない」との強弁に驚き

 ――「関係がある」とお考えなのですね。

 「五輪を開催する」というメッセージが与える巨大な影響がまったく考慮されていません。緊急事態宣言と五輪を両立させた結果、人々に緊張感がなくなった。

 最も大きい理由とは言いませんが、人出が増えた理由のかなり大きな部分を占めると認識しています。

 私が知る限り、「関係がない」と発言をする人々の中に医療の専門家はいないように思います。

 「関係がある」という医療者の声に耳を傾けず、あくまで「関係がない」と強弁する人たちがいることに驚きました。

写真・図版
救急車で運ばれる新型コロナウイルス感染症の患者=2021年8月3日午前10時35分、千葉市中央区の千葉大学病院、熊井洋美撮影

 ――緊急事態宣言の効果は。

 これまでの緊急事態宣言は、一応の効果があり、それなりに感染が収まったと思うんです。

 今回は、宣言慣れ、変異株(デルタ株)の影響もあるとは思いますが、あまり人が減らなかった。

 要因のひとつは、「宣言が出ているのに、スポーツの大会ができるんだったら(外に出ても)いいんじゃないか」という心理的な影響です。緊張感をぎりぎり保っていた最後のバランスが崩れてしまった、という認識を持っています。

 実際、県外に旅行し、戻ってから陽性が判明した患者さんを多く診ています。彼らの中には、「五輪が開かれてるんで、旅行くらい、いいかと思った」とわざわざ口にする人もいます。良心の呵責(かしゃく)もあるのでしょうが、五輪はちょうどいい口実になっていると感じます。

 ――競技はご覧になりましたか。

 あくまで私個人の話ですが、テレビ観戦した時間はゼロ。開会式も含めて1分も見ていないです。

 医局のテレビはしばしば五輪中継が流れていましたが、見る余裕のある医師は少なかったと思います。五輪の感動や、スポーツの力というのは少なくとも私のもとには届いていないようです。

コロナ禍で世論が分断された中、東京五輪が幕を閉じました。識者は今、どう考えているのでしょうか。寄稿やインタビューでお伝えする連載です。

 ――この五輪は何を残したと…

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