老老介護、餓死、凍死… 「2人孤独死」記者が語る現場

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大阪社会部・野崎智也

 現在、在阪の報道各社が加盟する大阪府警の記者クラブに詰め、日々起きる事件や事故の取材をしています。

 取材方法は様々ですが、事件や事故の発生を知る手段の一つに、府警からの「報道発表」があります。殺人や強盗、詐欺や窃盗、ひき逃げなど内容は多岐にわたります。

 ただ、府警側から明かされるのは、発生時間や場所などの最低限の情報だけで、詳しく報じるためには、捜査関係者や当事者への追加取材、現場での聞き込みが欠かせません。

「変死体の発見(2人)」殺人事件か…

 府警を担当して2年になりますが、最近、ある種の発表が散見されることに気付きました。

 それは、「変死体の発見(2人)」というものです。近所の人からの110番通報などをきっかけに、警察官が2人のご遺体を同時に見つけたものの、亡くなった原因や経緯がわからない、という内容です。発表直後は「殺人事件かもしれない」と緊張が走ります。

 しかし、取材を進めると、多くの場合は殺人事件ではなく、高齢の夫婦やきょうだい、親子が、自宅で相次いで病死や急死を遂げた可能性が高いことがわかってきます。

 2人一緒に暮らしていたはずなのに、なぜ誰にも知られずに亡くなってしまうのか。数人の同僚とともに直近数年間の事例を探し、現場で取材を重ね、背景を探りました。

Apple Podcasts や Spotify ではポッドキャストを毎日配信中。音声プレーヤー右上にある「i」の右のボタン(購読)でリンクが表示されます。

 ある家では、93歳の認知症の母と、母の介護をしていた68歳の娘が亡くなっていました。娘が病気で先立ち、食事がとれなくなった母が餓死したとみられています。

 67歳の夫婦の事例では、重い持病がなかった夫が冬場に急死し、足が不自由な要介護の妻が残され、低体温症で亡くなったと推定されました。ケアマネジャーからの通報で警察官が室内に入ったとき、床の上で倒れていた妻の傍らに車いすがあったそうです。

 餓死、凍死、空の冷蔵庫、残金十数円……。取材のたび、現代の日本で起きたとは信じがたい状況が次々と浮かび上がってきました。

過去最高の高齢化率 リスクは「2人暮らしでも」

 いわゆる「孤独死」が社会問題とされて久しいですが、行政の支援は「1人暮らしの高齢者」が優先されがちで、2人暮らしの場合は対象から漏れやすいのが現状のようです。

 ただ、ある専門家は「2人暮らしと言っても、一方が認知症などで介護が必要な場合、介護する側の人が倒れてしまえば生きていくことが難しくなるため、潜在的には1人暮らしと同じ状態」とリスクを指摘します。

 高齢者が高齢者を介護する「老老介護」の世帯も同じ構図で、誰にもみとられずに2人とも亡くなってしまうリスクが高いと言えます。

 取材班はこうした状況を「2人孤独死」と呼ぶことにし、各地の事例をまとめた連載記事を7月に朝日新聞デジタルで配信しました。

 日本の総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は、2020年9月時点で過去最高の28・7%となり、2人孤独死は今後一層、増えていくものと考えられます。

「誰一人取りこぼさない」ために プロフェッショナルの提言

 こうした事態を防ぐためには、どうしたら良いのでしょうか。

 福祉の先進自治体として知られる大阪府豊中市の社会福祉協議会の勝部麗子・福祉推進室長にインタビューをしました。

 勝部さんはコミュニティーソーシャルワーカーとして、長年、生活に困った人たちに寄り添い続けてきた支援のスペシャリストです。過去にはNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」などで紹介され、勝部さんをモデルにしたドラマも放映されました。

 取材前、社協の窓口カウンターの近くで約束の時間になるのを待っていたとき、職員の方々から「どうされました?」「用件は伺いましたか?」と次々に話しかけられました。

 相談者が窓口の手前まで来たのに、「生活に困っている」と言い出せず、引き返してしまわないようにするための心掛けなのでしょう。「待ち」の姿勢ではなく、「誰一人取りこぼさない」という執念のようなものを感じました。

 社協では、一軒ずつ家を訪ねて安否や生活状況などの様子を確認する「見守りローラー作戦」など独自の孤独死対策を長く続けてきました。こうした地道な取り組みの広がりが、「2人孤独死」を防ぐ一つの手立てになると思いました。

 勝部さんの話を聴き、厳しい状況がすぐに良くなることは難しいものの、少しばかり光が見えた気がしました。