第3回「不登校を選べた」ほめてあげて ヨシタケシンスケさん

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聞き手・林利香
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 絵本作家のヨシタケシンスケさん(48)は、自信がない、楽しいこともない、という子ども時代を過ごしました。苦手なことからずっと「逃げる」ことで、現在の仕事にたどりついたそうです。ベストセラーになった絵本「りんごかもしれない」も、逃げた先に生まれた物語でした。当時の気持ちや作品に込めた思いを聞きました。

    ◇

 〈姉1人、妹2人の4人きょうだい。二つ上の姉は、はっきりと自己主張する性格で、勉強もなんでも出来る「天才」だった。そんな姉と自分を比べてしまい、少年時代は劣等感を抱いていた〉

 僕はずっと、自分はなんにもできないと思っていました。家族の中でも、場を荒立てないことが、居心地よく生きるすべでした。いつもひとりでぶつぶつ本を読んでいるような子で、腹を割って話せる友達もいない。いないから寂しいとかじゃなくて、そういうものだと思っていたので、つらいという意識はなかったんです。

 工作をすると、母親がほめてくれることがうれしくて。でも、その気持ちが反対に、怒られたくない、という気持ちを増幅させました。もともと怖がりで極度の心配性。どうすれば怒られないか、言い訳ばかり考えていました。

 人から言われたことをきちっと形にすることは得意だったので、職人になりたかった。高校の美術部の先生が勧めてくれた美術系の大学に入りました。

 〈大学で作品を自由につくる面白さに気づいた。大学院を卒業後、ゲーム会社に就職。そのときのストレス解消法が、イラストレーターの道へつながった〉

 大学に入って、初めて人に喜んでもらえる楽しさに気づきました。好きだった宇宙服をつくって友達に見せたら、「面白い」とすごくほめてくれた。そこで、小中高時代がつまらなかったことに初めて気づいたんですね。

 卒業後に、半年間だけサラリーマンになりましたが、ストレス発散のために、手帳にこっそりと小さなイラストを描いていました。ネガティブな性格なので、生きているのが嫌になっちゃう。毎日自分を励まし直し、「世の中ちゃんと探せば面白いことがある。周りにも、あちこちに転がっている」と言い聞かせるために描いてきたもの。自分にとってリハビリの感覚です。

 そんなイラスト集を自費出版でつくり、いろいろな人に配っていた。それが出版社の方の目に留まり、今の仕事につながっています。

苦手な色ぬり、「していない」

 〈2013年の絵本デビュー作「りんごかもしれない」は、目の前にあるリンゴから妄想を膨らませる男の子が主人公だ。実は、色塗りは自分ではしていない〉

#withyou~きみとともに~

◇学校に行きたくない、生きづらい……。長い休みが明ける前後、いつも以上にしんどさを感じる子どもたちに「ひとりじゃないよ」と伝えたい。「#withyou~きみとともに~」は、そんな思いを込めた企画です。同じように苦しんだ経験をもつ著名人からのメッセージや「居場所」に関する情報などを、随時掲載します。

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    今村久美
    (認定NPO法人カタリバ 代表理事)
    2021年9月3日2時12分 投稿
    【視点】

    全て共感します。しかし、家庭に余裕がないと、学校に行かない子どもを支えきれないのも不登校親たちの切実な本音です。 ここのところ、経済的に苦労しているご家庭のお子さんで、学校に行かない、行けないケースの支援策を検討するため、保護者のお話

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