町田そのこさん 言えなかったいじめ、作文が変えた世界

聞き手・阿部朋美
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 作家の町田そのこさん(41)は、小学校高学年の時に同級生からいじめを受けていました。いじめが止まるきっかけは、町田さんが書いた1通の作文でした。

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 いじめが始まったのは、小学5年の終わりごろです。当時の私は、鈍くさくてめがねをかけて小太り。発達が遅く、からかいやすかったのだと思います。プリントを前から後ろに配る時に、同級生の男子から「汚い。ばい菌がついた」と言われました。みんなが盛り上がって笑っている時に私も一緒に笑うと、「お前は入ってくるな」と言われたこともありました。

 小学2年で転校してきて、幼稚園から一緒の同級生の中に入った私は浮いていたんだと思います。放課後にみんなで遊ぶ時にも誘われたことはなく、「楽しかったね」という会話にもついていけませんでした。

 私が近づくと、男子が胸の前で腕をクロスさせて「バリアー! ばい菌がうつるぞ」と言われる。「どっか行け」とボールを当てられることもありました。それを見ている女子たちは「やめなよー」と言いながら、男子とじゃれているようでした。

 それでも私は自分が悪いと思っていたので、言い返せませんでした。忘れ物が多く、身だしなみをちゃんとしていなかったから、仕方ない。そんな自分が嫌いでした。みんなが私を「どうしようもない子」と思っているという諦めの気持ちがあり、先生や親に相談はできませんでした。

 小学6年のある日、男子から椅子を投げつけられて流血するけがを負いました。その時は「ごめん」と謝られましたが、「このままだともっとひどいことをされるかも」という恐怖が襲ってきました。

 でも、家族や先生に言えない。そこで得意だった作文を書きました。「先生、私はいじめられています」と。男子からはばい菌扱いされ、女子は「やめなよ」って言っても本当に心配はしてくれない。止めるような言葉を言いながら笑っているのがつらい、と書きました。でも、先生には出せませんでした。

 私が珍しく机に向かって熱心に勉強しているなと思った母が、引き出しにあった作文を見つけました。あわてた母はノートを持って、学校へ行ってくれたのです。いじめに気づいていなかった担任の先生もすぐに動いてくれました。通常の授業を数日休み、クラスの児童全員に私へのいじめに関する聞き取りをしてくれました。その上で「あなたたちのやっていることは、人を殺すことだよ」と全員の前で熱心に話してくれました。

 そこから、直接的ないじめはなくなりました。いじめが終わるきっかけは、こんな簡単なことだったのかと驚きました。

 私の作文を見つけた母は、涙を流していました。母は気が強くて厳しい人で、これまで泣くところを見たことがありませんでした。母の姿を前にして、子どもがいじめられるというのは、親が悲しむことなんだと知りました。悲しんで悔しがる母を見て、ようやく自分は声を上げるべきだったんだと気づいたのです。

 いじめられている時に心の支えとなったのは、少女小説で有名な氷室冴子さんの作品です。氷室さんの描く芯があって強い女の子に憧れ、「いつか私もこうなりたい」と思っていました。作家をめざしたのも、氷室さんの影響です。

 いじめられると、自分の価値がわからなくなってしまいます。だけど、「あなたの価値を認めて、好きになってくれる人は必ずいるよ」と、いまつらい思いをしている人に伝えたいです。自分をとりまく世界は簡単に変えられないと思っていても、私のように作文ひとつで変わることもある。世界は簡単に変わる。そう思っています。(聞き手・阿部朋美)

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 〈まちだ・そのこ〉 1980年、福岡県生まれ。理容師専門学校を卒業後、職を転々とした。結婚、出産後の28歳から作家活動を始め、現在は3児の母。初の長編小説「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社)が今年の本屋大賞に選ばれた。

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