ライチョウ家族、那須で細心のケア 自然復帰めざし

小野智美
【動画】ライチョウ、母鳥の盲腸フンを食べるヒナ=那須どうぶつ王国提供
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 【栃木】長野県中央アルプスで自然繁殖した野生のライチョウ家族が、那須どうぶつ王国(那須町)にやって来て約2週間。近い将来、中央アルプスの山中の自然に復帰できるように、飼育員たちは細心の注意を払って世話を続けている。

 7羽の家族が同園に移送されたのは3日。佐藤哲也園長は担当する飼育員たちに飼育上の注意点を細かく伝えている。スタッフは獣医師を含め7人。野生のライチョウの飼育は初めてなので、試行錯誤が続く。

 大好物は「ミルワーム」と呼ばれる虫餌(むしえさ)とコケモモ。あっという間に平らげてしまう。「先に虫餌をやるな。早い者勝ちになる。(野菜などの)青物を出して、集まってきたら虫餌を二つに分けてやれ。みんなが均等に食べられるから」

 虫は特に好き。飛んでいるハエもジャンプして食べてしまう。生きたコオロギも与えている。

 日本のライチョウは警戒心が薄い。園に来て日は浅いが、ヒナたちは早くも環境になれて、給餌(きゅうじ)の時間には大急ぎで集まってくる。母鳥が後から来た時は器が空っぽのことも。

 飼育員がエサをステンレス容器に盛った時、佐藤園長はすぐに容器を交換させた。「光るものは絶対に使うな。光るものがない山で生きていくのに、光るものがあるのがエサ場だと認識したら困る」

 水を入れた器には石を入れた。器に入り込んで体がぬれないようにするためだ。石の間からつつくようにして飲む。室温は山と同じ20度以下。野生でも体がぬれて低体温になり、死んでしまうライチョウのヒナは少なくないという。

 給餌は1日3回。中央アルプスなどから取り寄せた高山植物のガンコウランやコケモモなども用意しているが、限りがあるため市販の野菜も与える。大人気なのはブロッコリースプラウト。次が小松菜。園周辺に生えるハコベも好きだ。

 高山植物や野草を積極的に与えるのは腸内細菌を保つためだ。ライチョウのヒナは生後まもない一時期、母鳥の盲腸から出るフンを食べる。ヒナはこのフンを介して母鳥の腸内細菌を取り込む。その細菌の力を借りて高山植物を消化して栄養をとる。その細菌が腸内にないライチョウは、山で生きていくことは難しい。

 人工繁殖で生まれ育った動物園のライチョウの母鳥は細菌を体内に持っていないため、そのヒナを山に放すことは簡単ではない。

 野生のライチョウは、園の動物なら入園前に必ず駆虫する原虫のコクシジウムも体内に持っている。数が増えすぎると衰弱死をもたらす原虫だが、佐藤園長は「長い間、ライチョウは共存してきた。その理由があるのかも」。

 ただ、原虫が増えすぎないように、週1度、検便をしている。フンにまじって排出されるコクシジウムの卵「オーシスト」は、非常に小さく、肉眼では確認できない。撲滅は難しく、特殊な薬剤や熱湯しか効かない。飼育員の靴の裏などにくっついて拡散する危険もある。

 原虫を体内に持たない園生まれのライチョウにとっては、野生復帰順化施設全体が警戒区域。園長は「ここにも、そこにもオーシストは落ちている」と飼育員に力説。園生まれのライチョウを世話する飼育員は、同じ日に順化施設には絶対に立ち入らないようにしているという。(小野智美)