迫るのではなく共に進める オードリー・タンさんが目指すデジタル化

台北=石田耕一郎
[PR]

 トランスジェンダーを公表している台湾の政務委員(閣僚)オードリー・タンさん(40)は、IT知識や人脈を生かし、台湾社会のデジタル化に取り組んでいる。コロナ禍でも、民間のアイデアを積極的に採用し、感染拡大を防いだ。その過程で重視してきたのは行政の説明責任の徹底や官民の協働だった。底流にあるのは、社会の多様性を大切にする考え方だ。

朝日地球会議2021への参加申し込みはこちらから

オードリー・タンさんは、10月17~21日にオンラインで開催される朝日地球会議に登壇します。参加費は無料。事前登録が必要です。

 新型コロナに対し、台湾では社会と行政と経済界が、「同じ船の運命共同体」として流行の抑え込みに取り組みました。行政は権威的な態度で対策を指示するのではなく、マスク着用や防疫のための隔離の必要性などについて、人々に説明をつくしました。台湾の憲法では、緊急事態を宣言して人々の権限を制限することが行政に認められています。しかし、私たちはコロナ禍で緊急事態を宣言せず、行政の権限を広げない手法をとりました。

 台湾では、コロナ禍の前から行政のデジタル化が進んでいました。たとえば、外国人労働者を含め、ほとんどの人が持つ健康保険カードを使えば、人々は自分の過去の診察記録だけでなく、X線やCTの画像までネット上で確認できます。こうしたデジタル化が、流行初期の人々へのマスク配給制などに生きました。

 行政がデジタル化を進めるうえでは、個人情報の扱いについて、人々から信頼してもらうことが重要です。説明責任を果たすよう努め、情報を扱える人を法律で制限しました。デジタル技術に強くない人や、ネットの高速通信を使える環境にない人たちがこぼれ落ちないようにする配慮も大切です。

 人々にデジタル化への適応を迫るのではなく、補聴器や眼鏡のように、科学技術の方を人々の生活を便利にするよう合わせるのです。実現には、システムを設計する段階から、デジタルが苦手なお年寄りらの意見を聴き、共に進めるのです。

 台湾社会は環境保護団体など多くのNGOが長い歴史を持ち、活力に満ちています。行政も民間の知恵を借り社会の発展に役立てています。たとえば、人々が日常生活で感じた疑問や改革案をネット上で受け付ける制度があります。そこからプラスチックストローの削減などを実現しました。

 この制度は誰でも利用でき、5千人以上の賛同が集まれば行政は提案者や関係業界から意見を聴くなどの対応が求められます。その過程で当事者間の意見が対立することもありますが、議論を通して多くの人が共感できる改革案を見つけるのです。

 台湾はアジアでは多様化が進んだ社会で、同性婚も法制化されています。女性議員の比率を保つ制度もあり、立法院(国会)の女性議員は4割を超えます。

 多様性のある社会の長所は、個人の運命が性別などで決められてしまわないことです。個人が社会にどんな貢献をできるかは、それぞれの人が長い時間をかけて考え、ようやく見つけ出せるものです。たとえば、性別によって制限されると、もう一方の性の人なら務められる役回りに就けず、個人が持つ半分の可能性がつぶされてしまう。これでは別の性の人が抱く問題に共感することが難しい。生み出される政策も、様々な人々がいる社会の問題を解決できません。みなが少しずつ偏見を捨てるよう意識することが、多様性のある社会の実現につながるでしょう。

     ◇

 オードリー・タン(唐鳳)氏 台湾のデジタル担当政務委員(閣僚)。1981年生まれ。小中学生時代に不登校を経験し、高校には進学せず、IT業界で活躍した。20代でトランスジェンダーを公表し、唐宗漢から改名。政界での実績はなかったが、2016年に史上最年少で民間から登用された。新型コロナの封じ込めに向け、ITを使った濃厚接触者の追跡システムやワクチン接種予約システムを開発した。(台北=石田耕一郎)