ベッドタウンをリゾート化? 廃プールが問う老いる横浜

横浜市長選挙

武井宏之
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 「栄プールの廃止について」。こんな貼り紙が建物のドアに貼ってあった。

 鎌倉市境に近い横浜市栄区野七里地区。閑静な戸建て住宅地に隣接する市営温水プールが昨年3月末、閉館になった。

 1976年完成。元々は2006年度までに廃止されたごみ焼却場の余熱利用施設だった。延べ床面積3400平方メートルの半地下の建物が、今は廃虚のように放置されている。

 近辺は丘陵地を造成した戸建て住宅地。1972年から「上郷ネオポリス」として販売された。約870戸に約2千人が住む。

 開発から半世紀。子どもたちは巣立ち、住民は年を重ねた。65歳以上の高齢者が約50%を占め、独り暮らしも増えた。

22日投開票の横浜市長選では何が問われているのでしょうか。政策課題の論点と各候補の主張を紹介します。今回のテーマは「少子高齢化」です。

 小学校は15年前に閉校。軒を連ねた商店街も姿を消した。「この街で住み続けたいが……」。将来に不安を感じた住民が2014年、ネオポリスを開発した住宅メーカー大手の大和ハウス工業に直談判。同社が応じ、16年に持続可能なまちづくりに関する協定を自治会と締結した。

 同社が建設したコンビニエンスストア併設のコミュニティー施設が、19年10月にオープンした。名付けて「野七里テラス」。住民ボランティアがコミュニティー施設の管理やイベント企画にかかわる。

 「再生へのスタートラインに立てた」。まちづくり協議会の吉井信幸座長(74)は意気込んだ。そんな矢先の市営プール閉館だった。野七里地区はJR港南台駅から路線バスで約20分。市民利用施設の廃止は、じわじわと減便される路線バスの存続にもかかわる。

 ただ、吉井さんはプール跡を「宝の山」とも見ていた。

 建物は隣の高齢者福祉施設「翠風荘」との合築。趣味の教室やカラオケなどで利用されているが、浴場は水漏れがわかった13年から休止している。施設を存続するか移転するかなどの検討が、年度内をめどに進む。

 ここは鎌倉に抜けるハイキングコースの玄関口の一つ。使われない浴場からは大都市の一角とは思えない緑豊かな景観が広がる。

 「民間もかかわり、健康とレクリエーションの拠点に変えられれば、子育ても仕事もできるリゾート的な住宅地としてアピールできるのに」

 とは言え、二つの施設は資源循環局、市民局、健康福祉局、栄区がかかわる。それぞれ法令などの制約が絡み合い、活用は一筋縄ではいかない話だ。

 「地域の思いを実現させてあげたいという思いはある」と栄区の担当者。市役所内での模索は続く。

 横浜市は今後、なだらかな人口減少に入り、将来推計では40年代初めに350万人を切る。3月末時点で24・7%の高齢化率は、35年に30%を超え、40年代後半に35%に達する。

 現状でも、全18区のうち8区は、20年1月までの10年間に人口が減っている。減少率が2番目、高齢化率は31%で最も高い栄区は、いわば課題先進地だ。

 特に野七里地区をはじめ区南東部は、高齢化率が50%以上の地区が点在する。自然豊かで良好な住環境だが、徒歩圏内に鉄道駅はなく、高齢化や人口減少が進めば、空き家の増加や路線バスの減少、買い物の利便性や医療・介護態勢の確保が危ぶまれる。

 今年度までの市の中期4カ年計画では、郊外部のまちづくりの主な施策として「鉄道駅周辺」が真っ先に挙がる。続く「持続可能な郊外住宅地再生」では、5カ所の推進地域はいずれも私鉄やJRの沿線だ。

 横浜市は戦後、東京のベッドタウンとして一気に開発が進んだ。良好な住環境を維持する第1種低層住居専用地域は市域全体の3割以上の137平方キロ。政令指定市で最も広く、鉄道駅近くばかりではない。

 18区には人口増加が続く都心部や北部もあり、地域課題はさまざまだ。行政がいかにきめ細かく対応するか。次の任期を務める市長には、巨大な行政組織を動かす知恵と工夫が求められる。武井宏之

超高齢化と人口減少への各候補者の主な訴え

太田正孝氏 子育てしやすい社会をつくる

田中康夫氏 各区役所と議員に予算提案枠を創設

小此木八郎氏 少子化対策と持続可能な経済政策

坪倉良和氏 2・3世代居住への応援態勢と政策を

福田峰之氏 子育てしやすい環境を構築、転居促す

山中竹春氏 医療・介護、子育て・教育政策を充実

林 文子氏 支え合いと協働の地域づくりを実現

松沢成文氏 福祉と子育て支援充実で選ばれる街へ

(届け出順。アンケートの回答などから)

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