今敏、奇術師であり予言者 仏監督が描いたカンヌ上映作

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佐藤美鈴
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 7月にあった第74回カンヌ国際映画祭。クラシック部門で、日仏共同製作のあるドキュメンタリーが上映された。2010年に46歳の若さで亡くなったアニメーション監督、今敏(こんさとし)についてのドキュメンタリー映画「今敏 イリュージョニスト」(仮題)だ。

 今敏の軌跡を「パーフェクトブルー」「パプリカ」といった代表作と共にたどり、親交のあった作り手たちの証言でその魅力や後世に与えた影響を映し出していく。インタビューでは、今敏作品をプロデュースした丸山正雄、アニメーション監督の細田守押井守、声優の林原めぐみ、作家の筒井康隆、米国の映画監督ダーレン・アロノフスキーフランスのアニメーション監督ジェレミー・クラパンら、国際的なアーティストが多数登場する。

 日本では来春公開が予定されているが、一足早くカンヌで、監督のパスカルアレックス・バンサン(フランス)に製作のきっかけや今敏作品の現代性、フランスでの評価について聞いた。

仏の学生の「好きな監督」にいつも入る

 ――なぜこの映画を撮ることに?

 僕は学校を卒業後、日本映画の配給をしている会社で12年間働きました。そこを辞めて映画を作るようになり、短編がカンヌの監督週間とオフィシャルセレクションに選ばれるなど評価された。

 でも、日本映画を思う気持ちが常にあって、映画を作りたいという気持ちと交錯し、美輪明宏さんのドキュメンタリー(13年に日本公開の『美輪明宏ドキュメンタリー~黒蜥蜴(とかげ)を探して~』)を監督しました。

 それがあったから、堀越謙三さん(東京・渋谷でミニシアター運営とともに製作・配給を手がけるユーロスペースの代表)が僕に今回の企画を持ってきてくれたんだと思います。僕のとても親しい友人である吉武美知子さん(2年前に他界した仏在住の映画プロデューサー)が堀越さんとつないでくれた。

 今敏さんはもちろん僕もすごく好きな監督だったし、僕が教えている大学の授業で、好きな監督は誰かというアンケートをとると、いつも彼の名前が入る。今の若者にも響く監督でもあるので、ぜひ作りたいと思いました。

 ――今敏監督がフランスの若者によく知られているのはなぜですか

 今の若い世代の人たちは「ブラック・スワン」「インセプション」といった作品を好み、それを調べていく過程で、アロノフスキー、クリストファー・ノーランといった監督が今敏さんの影響を受けたということでたどり着く。あとは「パーフェクトブルー」はフランスでは割と頻繁に再上映されている。

 だから世代はずれていても、今敏監督にたどり着く道は結構あって、それが理由かなと思います。

日本のアニメでなく、作家映画の一つ

 ――監督自身はフランスでの公開時に映画館で「パーフェクトブルー」をご覧になったそうですが、どんな感想を抱きましたか

 僕が今敏作品と出会ったのは1990年代の後半です。フランスにおける日本映画という意味では、第1期、50年代以降に「羅生門」などが話題になって、そこから日本映画が入ってこない時期が長くあって、河瀬直美監督の「萌の朱雀」、ベネチアで金獅子賞をとった北野武監督の「HANA-BI」をきっかけに、97年くらいからまた日本映画が入ってくる第2期日本映画ブームが起きた。その中で黒沢清青山真治園子温といった監督の作品が入ってきた。

 フランスは作家主義がとても…

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