「やっと抜けましたね」智弁学園の前川君 高嶋仁の目

前・智弁和歌山監督
[PR]

(21日、高校野球選手権大会 智弁学園5-0横浜)

 やっと抜けましたね。

 横浜戦の六回に、智弁学園の前川右京君がバックスクリーン左に打ち込んだ本塁打です。

 ええ具合に力が抜けているから、バットのヘッドもきれいに抜けるんです。

 打った本人は、おそらく感触があまりなかったんやないでしょうか。それでも打球はあそこまで伸びるんです。反対に力めば力むほど、打球は上がらないし、遠くへ飛ばない。

 打撃というのは力を入れることより、抜くことの方が難しいんです。

 奈良大会のあと、智弁学園の練習に出向く機会がありました。ティー打撃のトスを上げながら、「力むなよ」「センター方向やぞ」と話しました。

 1回戦ではまだ力んでいたし、この日の第1、第2打席も強引に引っかけてゴロになっていました。いい兆しが見られたのが四回の第3打席。左投手のボールを素直に打ち返し、センターオーバーの安打にしました。

 この回は智弁学園の打撃に変化が見られました。きっかけは投手の西村王雅君の打撃です。外角球を逆らわずに左前へ流し打ちました。左投手を攻略するお手本のような打ち方です。右打ちの竹村日向君も中前安打で続きました。そして、前川君の一打が出ました。

 左投手同士の先発対決で、序盤はむしろ、横浜打線の方がええ打ち方をしているように見えました。三回に1番緒方漣君が打った中前安打や、四回の4番立花祥希君の二塁強襲安打など、こちらの方が素直にバットが出ている印象がありました。

 ただ、あと一押しできないまま、後半は打撃内容も悪くなっていきました。野球は流れが重要なスポーツです。悪い流れを変えるために、横浜はもう一工夫が必要だったかもしれません。それが難しいんですけどね。

 とは言え、3年ぶりの甲子園で大きな経験を得たと思います。先発した杉山遥希君や1回戦で逆転サヨナラ本塁打を打った緒方君は1年生。下級生が先輩に感謝し、新チームに生かして欲しいです。

 村田浩明監督にとっても甲子園で初めて采配した2試合は、素晴らしい経験になったと思います。興国(大阪)で監督をしている喜多隆志が、智弁和歌山の野球部長として一緒にベンチに入ったとき、「外で見るのと全然違いますね」と驚いていたのを思い出します。独特の雰囲気、緊張感……。時間があっという間に流れます。

 やっぱり甲子園は特別なところなんです。(前・智弁和歌山監督)